アイシールド21夢

□愛しき幼なじみ
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目の前でメールを見ながら微笑む棗。
その嬉しそうな表情に自分の感情も簡単に左右されてしまうが、そうやって揺れ動く自分が少し楽しくもある。


「メール、誰からだ?」

<阿含さん。ベンチプレスの記録、また更新したんだって。すごいね>


その言葉に、ムサシは一瞬めまいを起こしそうになった。
この幼なじみは初対面で自分に詰め寄ったーーーいや、襲ってきた男とメールをしているのだ。
今自身が手にしている携帯電話を持つきっかけになった事件をすっかりと忘れ、微笑みさえ浮かべて会話を重ねている。

ーーーいや、忘れているわけじゃ…ないんだろうがな

ムサシやヒル魔、まもりやチームメイトたち、そして他校のメンバーに心底心配されたことを棗が忘れているわけがない。
おそらく阿含の冷たさや迫られたときの恐怖もはっきり覚えているのだろう。
けれどそれを上回る信頼と信用を、阿含は得てしまったのだ。
過去のことをいつまでも引き摺ることはなく、今現在と、進んでいく未来を楽しめるのが、棗の強さなのだ。
見返りを求めず、ただただ純粋にあり続ける棗。
その優しさと純粋さは人を惹きつける。
それに気付いていないだろう棗は、おそらくセナや阿含、そしてたくさんのメンバーから送られてくる"好意"に"愛"を感じているのだろうか。
ムサシは幼なじみの周りにいる男達のことを思ってため息を吐きそうになったが、それをどうにか内心だけで留める。
ゆっくりとしたペースでメールを返し終え、携帯を丁寧にパタリと閉めた棗を見る。
メモ帳に見慣れた少し丸い文字で"阿含さんのベンチプレス記録更新 ーーーキログラム"と書き込み、すごいなぁ阿含さん、と唇が動いたのが読めた。
ムサシはその言葉になぜか対抗意識を燃やしそうになり、苦笑するしかない。
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