コナン夢

□公認ストーカー
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キュ、と上履きが鳴って棗の前で足が止まった。
その両足はおそらく新一のものなのだろうが、涙で歪む視界はそれすら確かめさせてくれない。
けれど自分と比べて一回り以上も大きな足は確実に男子のものだし、新一が体調の悪い自分を放っておくとは思えない。
きっと心配して来てくれたのだ、と思いついて心は喜びに傾いた。
けれどそれと同時になぜか言葉に出来ないもやも湧いてくる。
もしもこうやって自分以外の人が困っていても、新一は手を貸すだろう。
幼なじみが自分でなくたとえば園子だったとしても優しい新一は同じような態度で接するのだろう。

ーーー自分は新一にとって、特別な存在なのだろうか。

幼なじみ、という立場だけでなく、少しは好意をそして異性だという認識を持ってもらえているのだろうか。
守らなければならない相手というだけではなく、大切だから護りたいという立場にいるのだろうか。
ホロリと涙が落ちた瞳で、彼のことを見つめる。
新一と自分では足のパーツひとつとってもありありと男女の差が示されている。
というのに、自分はなぜあの日まで新一が"男"だと言うことを感じずにいたのだろう。
あの日自分のことを抱き締めた新一は、自分のことを"異性"だと知ってくれているだろうか。


「大丈夫か?棗」


こんなにも甘さを含む低い声に毎日何度も名前を呼ばれていて、なぜ平然としていたのだろう。
気付いてしまった今では、もう前までの自分には戻れない。
新一に抱き締められたあの日から、新一の中に"男の新一"がいることを知ってしまったから。
笑う中にも、サッカーをする中にも、隣に立つ中にも、"男の新一"の影が覗くのを、知ってしまったのだ。
そしてその"男の新一"に、本能が乱され始めていることも棗は無意識的に感じ始めていた。


「ほら、手ぇ引いてやるから」


この差し出された手を取れば、この曖昧な関係に終止符は打たれるだろうか。
淡くぼやける"幼なじみ"という関係から、卒業出来るのだろうか。
理由もなく手を繋いだり、ふたりで笑い合ったり、誰の許可も必要なく優しく頭を撫でて貰ったり、ただ好きだからと唇を重ねたりーーー。
そう言うことが自由に出来る関係になれるのだろうか。
彼の隣をずっと歩くことが出来る、恋人という関係になれる日が来るのだろうか。

ーーーこわい…ーーー

棗は自分でも何が怖いのかが分からなかった。
けれどこの手は一体どの新一のものなのだろうか。
幼なじみの新一?ヒーローとしての新一?それとも異性としての新一…ーーー?
棗は動くことが出来なかった。
差し出された手に手を伸ばすことはおろか、その場から一歩も動くことも出来ずただ立ち竦む。
周りはそんなに体調が悪いのか、と少しばかり焦っていたが、新一は付き合いの長さ故か棗の様子に違和感を感じた。
ただ体調が悪いだけと言うには、棗の様子はあまりにもおかしすぎる。

ーーーなんかあったのか…?

違和感に気がついた新一だったが、とりあえず今の状態を変えなくてはいけないということに気がついた。
ここは教室で人目もあるし、今は休み時間だがあと数分もすれば教師が入ってきて教室に缶詰にされてしまう。
場所を変えることが解決になるとは思えなかったが、本当に体調不良もあるのなら場所は変えるべきだ。
素早く判断して、新一は棗の細い肩に手を回すととりあえず保健室に行こう、と囁いた。
棗はそれにうなずくことはなかったが、新一が優しく背中と肩を押して歩かせると小さな歩幅で歩き出した。
ふたりの壊すことの出来ない雰囲気に園子を含めた誰もが動けず、遠ざかっていく背中を見送ることしかできなかった。
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