どマイナー夢

□私が彼を恐れる理由
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私が彼を恐れる理由



くいもの処 明楽でバイトを初めて早数ヶ月。
一癖も二癖もあるスタッフとも仲良くなった(と思いたい)。
だけど未だ攻略できない人が、ひとり。
(できない、と言うよりは、しない、の方が正しい表現だろうけど)
それは、この店の店長ーーではなく、オーナーの牧さんである。


牧さんは両腕に刺青をしている。
初めて見たときは、多分目も口もまん丸のまま固まっていたと思う。
バイト面接の時は格好良くジャケットを着こなしていて
大人の雰囲気を醸し出していたから、真摯でセクハラなんて絶対しないオーナーだと勝手に思ってた。

だから初バイトの日に彼の刺青を目にしたとき、開けたドアをとっさに閉めてしまう程、衝撃がはしった。
出勤は私が一番遅かったらしくて(だって大学院生だ、しょうがない)スタッフはみんな揃っていた。
そんな中で私が牧さんの刺青を見て、瞬間顔を青くしてドアを閉めたから
店内にいた牧さんを筆頭にスタッフは私の行動に驚きつつも、顔を見合わせて納得したらしい。
(特に多香子ちゃんは私と同じ経験をしているから、何度も深く頷いていたらしい)

そのあと、店長がわざわざ外までお迎えに来てくれて(たったドア一枚が、その時の私に怖かった)
私は初出勤にして、店長とオーナーとで三者面談をした。
(どうして牧さんとの二者面談じゃなかったかというと、目の前に来るだけで固まってしまう位怖かったのだ)
(だって刺青はヤクザとか不良がするものじゃないか)
(ピアスみたいに軽いものじゃないんだよ、肌に彫るんだもの)
そんなことがあって、牧さんは真摯でセクハラをしない良いオーナーだとはわかったけれど、紳士では無いと心のノートにメモされた。


牧さんとは未だにあまり話さない(というか話せない)。
そして松城さんと同じ位の強面なので(もう強面というか怖面だ)かなり近づきづらい。
というか、実は用がない限り近づけない、と言うのが本音だ。
あの声と、あの目が萎縮させるから。
優しいことは仕事をしていく内にわかってきた。
だけど…怖いんだ。

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