どマイナー夢

□ある暑い日
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まだ、こいつがたった17だと言うことを





ある暑い日


こいつがあと5年早く生まれていれば、

俺があと5年遅く生まれていれば、



「…木場さん?」


不安そうに覗き込むこいつに、心臓が鳴る。
黒い瞳はまっすぐに俺を見て、
おう、と返事を返して顔を上げれば

ああ、まただ。


「お加減でも 悪いのかと思いました」


この笑みだ。
この 少女と女を行き来する、甘すぎる笑みを 惜しげもなく、



こいつが、まだたった17で、
京極堂の常連つながりで知り合って
刑事さんなんてすごいですねえ、と笑う こいつを見て

あたまのどこかが 弾けたような気がする。



「今日も、暑いですね」

「…ああ」

「お昼でこんなに暑いのに、今日は夜も暑いんだそうですよ」

「そりゃぁ…たまらねえな」


そうだ、たまらないのだ。
俺の横に平然と座り、紺色のスカートから白い肌を晒す。
赤くもなく、焼けてもいなく、ただ 真白くある、それ。

時折覗く鎖骨と、白い首。
痩せすぎているせいか、脈打つ血管が見える。


こいつは、魔物だ。



「木場さん」


呼びかける声の甘さ
細められる瞳
触れてくる淡い熱


どうすればいい
通りものにあたってしまった、俺を


笑う声
落とされる吐息
赤く色づいたくちびる



「…どうすりゃ、いい」

「……はい?」

「参った…」



こいつが、17なんて若さでなければ
俺が、こいつと10以上も離れていなければ

未来を選ぶ、分岐点はどちらの手にもあるようで
本当はこいつの手にしか無い。



「…棗」

「はい」

「……棗」

「…はい、」

「……、、」

「…木場、さん?」



気づかずに、いてくれればいい
(気づいて、選んでくれればいい)

気づかず、いつまでも となりで微笑んで
(気づいて、俺だけのために 微笑んで)






「…暑いな」

「…はい」


なんと言おうと、どうやって隠そうと
俺は

微笑むこいつに、のぼせ上がっているのだ




>こいつの幸せと、俺の幸せは 交わることがないのだろうか

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