どマイナー夢
□暑い日に坂をのぼる
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いつ見てもひどく長い坂を目の前にして、まずは一息ついた。
いい運動にはなるが、この暑さの中を歩くにはそれなりの覚悟がいった。
のぼり始めて数分もしないころ、後ろから小さな声がした。
振り向くと、甘い 笑顔。
「木場さーんっ」
あいつは手すら振りながら、あの白い脚で坂をのぼっていた。
よく、折れないものだと思う。
まだまだ坂は長く、あとに待つだろう京極の講釈のことを考えれば先に店に着くのが正しい選択かもしれない。
だがそれはできなかった。(その理由は、明白で)
「こんにちは、木場さん」
「おう」
「中禅寺さんのところへ、ですよね?」
「おう、少し話が聞きたくてな」
棗が並ぶのを待って、同時に歩きだした。
いつもなら気にも止めない歩調に神経を払う。
京極も関口も細君と出かける際は、こんなに気を掛けるのだろうか。
…いつもの俺らしくもねえ。
そう思いながらも、となりで脚を動かす棗を見る。
こいつもこの坂はきついのだろう。
汗が顎を伝っている。
その姿が綺麗だとも、なまめかしいとも思った。
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