どマイナー夢

□今でも覚えてる
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熊田はアヤの店のカレンダーを見て、もうすぐだな、と呟いた。
それを聞いた大川が首をかしげると、熊田はなんでもないと笑って見せた。
その笑みはいつも通り人をくったような笑みで、それに見とれている間に彼はビールを口にしていた。
お前も飲めよ、と勧められるまま、大川は酒も強くないのに酒を飲み続けた。

佐田と石井は熊田の隣でつぶれた大川を見て呆れるようにため息をついた。
飲めもしない彼に酒を勧めた張本人は未だ、つまらなそうに酒を飲んでいる。
ただその目がいつだったかの、別グループを潰したときの虚ろな目に見えて息をのむ。
大川と付き合うようになってからというもの、この実は怖いこの男がこんな目をすることはなかったというのに。
機嫌でも悪いのかとふたりが距離を取り始めたとき、ガタンッと激しい音を立てて大川が椅子を踏み外した。
ふたりが驚愕に固まっていると寝ぼけた大川が慌てたように身体を起こし、自分の身に起こったことを理解しようとしていた。
あたりを見渡し数秒止まってからようやく、自分がカウンターに突っ伏して寝ていたこととそのせいで椅子を踏み外したことに気がついたらしい。
今にも悲鳴の上がりそうだった口からはホッとしたような、軽いため息が漏れた。


「クマダさん、おれ、寝て…」

「……っ、…っく、くく…っ!」


大川が恥ずかしさを消すために話しかけた熊田は、顔を伏せて堪えきれない笑いを漏らしていた。
必死になってかみ殺そうとしているらしいが、肩は震えているし、笑い声は漏れているため、どちらかと言えば爆笑してくれた方がマシだった。
佐田、石井にアヤは先ほどまでの虚無のような瞳を知っているだけに、大川の行動ひとつでここまで熊田の態度が変わることにいっそ感心すら湧いた。
笑わないでくださいよー、と妙に間延びした大川の言葉と、熊田の爆笑。
遠くなったと思ったこのふたりは、すぐそばにいるのだとそう思えた瞬間だった。


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