映画/flat夢

□届かない声を張り上げる
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オートボットたちとの初対面を終えたふたりは、彼らを引き連れてナツメの家へと帰宅した。
バンブルビー対ディセプティコンの逃亡・戦闘に時間がかかったせいもあり、時計は深夜近くを示している。
裏路地にオートボットたちを待機させると、ナツメはデイビッドを振り返った。


「デイビッド兄さん、ここで待ってて」

「まさか!冗談だろ?従兄としても警察官としても居たら嬉しい立場だろ?門限だってとっくに過ぎてるんだし。
 俺が適当に言い訳しておくからその間に眼鏡を取ってこい」

「うん、わかった。…ビー、みなさん。すみませんがここで待っててください。すぐに戻ってきますから。
 本当にすぐ!すぐ戻ってきますからここに居てくださいね。もちろん車のままでっ!」


ふたりはバンブルビーから降りると、オートボットたちに何度も言い聞かせてから足早に家に向かった。
オートボットと名乗った正義の味方のロボット集団は、一刻も早く眼鏡を手にしたがっている。
幸い部屋は片付いているので眼鏡がどこにあるかなどすぐにわかる。ーーーただし邪魔さえはいらなければ。
もちろんその邪魔というのはロボットたちによる行動の可能性が極めて高い。
オプティマスなどロボットに変形すると、おそらく家と同じかそれ以上の身長だったはずだ。
彼らにとって人間も人間が作ったものたちもすべてが小さいのだから、悪気はなくても壊してしまう可能性は充分にある。
それにガーデニングが趣味の父が丹誠込めて作り上げた庭に彼らが立ち入れば、どうなるかは目に見えている。
ナツメはそうならないよう、急いで玄関のドアをくぐる。
するとそこには両親がそろってナツメのことを待ち構えていた。


「遅くなってごめん、お父さん、お母さん」

「門限はとっくに過ぎてるわよ、ナツメ」

「すみません、おじさん、おばさん。ちょうどナツメを見かけたんで送ろうと思ったときに道を聞かれてしまって。
 先にナツメだけを帰せば良かったんですが、彼女の方がいろいろと詳しくて」

「デイビッド。なんだ、ふたりは一緒だったのか。一言連絡をくれれば良かったのに」

「あ、そうだよね。電話すれば良かったんだ。慌ただしくて思いつかなかったよ、ごめんね」


デイビッドの姿を見ただけで両親は安心したように肩の力を抜いた。
車がエンストして立ち往生していたナツメを従兄のデイビッドが偶然見かけた、という作り話をふたりはすっかり信じ込んでいる。
ナツメの兄代わりでもあり、しかも警察官でもあるデイビッドの信頼度はとても高いのだ。
それにしても成人してもう数年も経ち、自宅ワークとはいえ起業までしているナツメを未だに門限で縛る両親の過保護っぷりにデイビッドは内心で苦笑するしかない。
ひとり娘の願いはなるべく叶えようとする甘さもあるかと思えば、肝心なところはしっかりと締めている。
ナツメは結婚するときさぞ苦労するだろうな、などと思いながらもデイビッドは適当に話しを合わせていた。
ナツメはその場をデイビッドに任せ急いで部屋に駆け上がると、眼鏡だけを手にしてすぐに降りてきた。


「あら、ナツメ?」

「どうした?」

「ううん、車の中に忘れ物しちゃったみたい。ちょっと取ってくるね」

「ナツメはどこか抜けてるな」


眼鏡を渡しにいく口実だと知っているくせにからかってくるデイビッドに膨れ面を見せ、ナツメは車の元へ走っていった。
そこにはオートボットたちがロボットに変形して待ち構えていたが、誰ひとり目のつきやすい庭には入り込んでいなかった。
眼鏡を手に入れる為に庭に入り込んだりロボット姿を近所の人に見られたりでもしたら、というナツメの心配は杞憂に終わったようだ。


「待っててくれてありがとうございます」

「バンブルビーに言われたのだ。庭にはナツメから名前をもらった花たちが咲いているから立ち入るな、と」

「ビー…!」


オプティマスの言葉を聞いたナツメがバンブルビーを見上げると、彼は心なしか嬉しそうにナツメを見つめ返した。
そしてラジオチャンネルをいじりながらナツメに言葉を返す。


「おいら、名前、もらったときはとても嬉しかった。…ガガッ、きっと花、たちも同じく、嬉しいはずだ。
 我々は、…家族だから」


いつもは歌の歌詞を使って話しかけてくるが、今回はラジオの言葉を選んで"ビー"として語りかけてきた。
ラジオを使った拙い言葉はナツメの心にジンと響く。
瞳を僅かに潤ませながらロボットになっているバンブルビーの足に触れる。


「ありがとう、ビー。私があなたに名前を付けたときの話を覚えていてくれたのね。
 花たちを護ってくれてありがとう。ビーも花たちも大切な家族だからね」


バンブルビーはその言葉に嬉しそうにライトを光らせ、ナツメを大きな手のひらで掬い上げた。
そして目と目を合わせてもう一度、我々は家族だから、と嬉しそうに告げた。


***
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