映画/flat夢

□家族と仲間たち
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「もう大丈夫だから。怖いことは何も無いわ。もう安全だからね、ビー。
 ビー。無事よね?…無事で良かった」


ナツメの言葉にバンブルビーはまた声を上げる。
自分は無事でどこにも損傷は無い。だからいつだって戦うことができる、とアピールするためだった。
だが今ここで戦闘が始まったとしたらナツメのことをどうやって護ればいいのだろう、とバンブルビーは考え込む。
機械である自分には拳銃はあまり大きなダメージにはならないが、人間であるナツメはそうはいかない。
人間は驚くほどか弱く、脆い存在だ。
自分たちが力を込めて握るだけで簡単に死んでしまうし、腕や足を切り落とされただけでも危険な状態になるほどだ。
一発の銃弾で死に至ることもある、恐ろしく儚い存在。それが人間だ。
自分の肩に乗せても手に握って護ったとしても、ナツメを護りながら戦うのは難しいだろうーーー。

バンブルビーの思考が戦闘一色に染まりかけたとき、素晴らしいタイミングでナツメが彼の名前を呼んだ。
優しい微笑みと何度も呼ばれる名前。部屋に入ったときからずっと与えられ続けるぬくもりも心地よく、バンブルビーに無限のパワーを与えてくれる。
販売店で出会ったときからナツメはバンブルビーのことをよく撫でたり触ったりしていた。
バンブルビーはそのあたたかなぬくもりがとても好きだったし、愛おしむように撫でる指先がくすぐったいのと同時に嬉しかった。
ナツメの持つぬくもりが自分に移っていくことも幸せで、この優しい人を自分が護っているのだと思うと誇らしくもあった。
言葉が通じるとわかる前からナツメはバンブルビーに幾度となく話しかけ、彼の名前を呼んだ。
大好きよ、ドライブするのが楽しいわ、私のことを選んでくれてありがとうねビー、そう言ってくれた。
いつだって笑いかけてくれた。生涯記憶しておきたい言葉を惜しげもなく言ってくれた。仲間に自慢したい思い出がたくさんある。
ロボットになるとわかってからも愛情を注いでくれたナツメのことが、バンブルビーは大好きだった。
だからバンブルビーはナツメのことを護りたかった。怖い思いをさせたくなかったし、擦り傷ひとつだって負わせたくなかった。
なのにナツメは攫われ、自分も捕らえられてしまった。まぎれもなく自分が招いたミスだ。
きっと怖い思いだってしただろうに、ナツメは今、バンブルビーの前で以前と変わらぬ笑顔を見せている。
バンブルビーが大好きな、優しくてすべてを包み込んでくれる愛情に満ちた笑顔を。


「もう大丈夫だから。ビーのおかげで私もデイビッド兄さんも怪我もなく無事でいるのよ。
 ビーが護ってくれたからよ。本当にありがとう、ビー。私たちを護ってくれて」


バンブルビーはナツメの言葉に低い声を出した。どうやら否定したかったらしい。
だがナツメはそれに気付かなかったのか、気付いていてあえて無視をしたのかわからないが、もう一度バンブルビーに微笑みかける。
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