映画/flat夢

□ただ、ひたすらに
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アイアンハイドとラチェットに援護されながら、ナツメは全速力で走っていた。
こんなにも必死で走るのはナツメにとって生まれて初めてのことだ。
至る所で爆発が起き、重く響く発砲音が聞こえる。
ナツメはこみ上げてくる涙や恐怖を押さえつけながら、一秒でも早く屋上にたどり着く為に足を動かした。


「走るんだ、ナツメ」


息が苦しい。足がもつれそうになる。それでもナツメは走らなければならない。
後ろを振り返る余裕など無い。
自分を護ってくれているアイアンハイドとラチェットが自分の邪魔をする障害物を取り除いてくれると信じて、ひたすらに走る。


「止まるなっ」


車の横を通り過ぎた途端、攻撃される。恐怖を感じている暇などなく、ただ走り抜ける。
投げ込まれる直前を走り抜けたナツメは、今目の前で見た黄色の車がバンブルビーと重なりそうになり頭を振った。
悪い想像は果てしなく続くものだ。一度考えてしまえば最悪の想像に足を絡めとられてしまう。

ーーービーも脚は怪我をしてるけど無事だった。ジャズさんだってメガトロンに捕まったけれど解放された。
   発砲音はデイビッド兄さんやレノックスさんたちが生きている証拠。だからっだから、だいじょうぶ……!

ナツメは自分自身に皆はだいじょうぶだ、と何度も言い聞かせた。時には声に出してつぶやきながら。
そうやって言葉にしておかないと不安に飲み込まれてしまいそうだったのだ。
と、目の前からディセプティコンが現れ、放置されていた車ごと派手にあたりを吹き飛ばす。
車の影に隠れながら攻撃を耐え、ディセプティコン対オートボットの戦闘をあまりにも間近で目の当たりにする。
ディセプティコンの容赦ない攻撃に悲鳴が上がりそうになるが、声をあげてキューブを持っていることが知られるとまずい。
ナツメは片手でキューブを抱え、もう片方の手で自分の口を必死に押さえながら声と息を殺した。
飛び立っていったディセプティコンを見送ると、そこには傷だらけになったアイアンハイドとラチェットの姿があった。
駆け寄って大丈夫かと問いたい気持ちを、アイアンハイドのビルに向かえ、という言葉でぐっと堪える。
ナツメは素早く立ち上がると、また走り出した。
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