映画/flat夢

□未来への一歩
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屋上にたどり着いたナツメはレノックスから教えられた通りに発煙筒を着火し、ヘリに合図した。
赤い煙がナツメの居場所を示してくれる。
近くのビルの屋上にいるディセプティコンがこの煙を見逃すとは思えないが、それでも発煙筒は消せない。
ヘリは何機も飛んでいるのでこのどれかにキューブとともに乗り込めばいいのだ。
もしも乗り込めなかったとしても、せめてキューブだけは預けなければ。
ナツメは屋上を走り回り屋上の縁まで来たとき、素晴らしいタイミングで下からあがってきたヘリがいた。
あちら側もナツメに気付いたようで大声で縁に登れ!と叫んでくる。
キューブだけでなくナツメも収容するように命令が下っているため、ナツメが屋上から身を乗り出す形でないとヘリに乗り込めないのだ。
だがナツメはディセプティコンがすぐそこにいる状況でそんな余裕は無いと判断した。


「キューブを!キューブをお願いっ!」


ナツメの叫び声は裏返っており、かっこ悪さとともに必死さが伝わる。
ヘリに乗った男はナツメの言葉を一瞬で理解しキューブを受け取る為に両手を伸ばした。
だがナツメの腕からキューブが手渡されようとした瞬間、ディセプティコンからミサイルが放たれた。


「危ないっ!」

「ミサイルだ!」

「旋回!」


すべては瞬間的だった。ミサイルがヘリに当たり炎が上がる。
ナツメはキューブを抱きかかえて伏せたが、そのすぐ横をヘリの羽根がレンガを削りながら通り過ぎていく。
そのとき上げた悲鳴が届いたのか、少し離れた場所から誰かがナツメを呼ぶ声がした。


「ナツメっ、待ってろナツメ」


その声に起き上がると、そこには屋根伝いに自分の元へ駆けてくるオプティマスの姿があった。
心強い味方の登場にナツメの涙腺が緩む。
ナツメがオプティマスの名前を呼ぼうとしたとき、屋上の一部が破壊され始めた。
メガトロンが下階から腕やらなにやらを突き上げて攻撃し、ナツメの持つキューブを奪おうとしているのだ。
ナツメは降ってくるがれきをできるだけ避けながらも、キューブを持つ手は緩めなかった。
しかしとうとう屋上に姿を現したメガトロンに追いつめられ、逃げ場を失ったナツメは屋上の隅にある像にしがみついた。
少し踏み出せばその先には床はなく、ただ落下するだけの未来が待っている。
キューブを片手で抱えながら落ちないように像にしがみつくナツメの姿はさぞや滑稽だろう。
メガトロンはナツメを小娘と嗤いながらゆっくりと近づいてくる。
なぶるようなその態度はまさしく自分が強者だと理解しているからだろう。


「お前の顔には恐怖しか浮かんでいないな。そんなにも俺様が怖いか」


ナツメは何度も短く息を吐いて、自分の中の恐怖の色を消し去ろうと努力する。
だが屋上に上がる前に考えてしまった最悪の状況が頭の中から消えてくれず、ひたひたと恐怖が忍び寄ってくる。
今、この屋上から落ちるかもしれないという恐怖は小さいものだ。
だが落ちて自分が死んでしまったとき、このキューブはメガトロンたちディセプティコンの手に渡る。
そうなれば人類には滅亡への道しか残されていない。
ただでさえ今この場で戦っている家族と仲間たちを失うかもしれないのに、それが全人類へと数を増やすのだ。
そんな恐ろしい結末など、考えたくもない。


「"オールスパーク"を渡せば、小娘。お前を俺様のペットにしてやる」


メガトロンが握った拳から高い金属音がして、その指先が剣のように研がれているものだとわかる。
ナツメは彼から少しでも距離を取ろうと後ずさったが、そこにはもう足場がなく砂と小石が地上へと落ちていった。


「皆が死んじゃうなんて、ぜったいイヤ…っ」


声を張り上げる勇気が持てず、小さくつぶやく。
腕に抱いたキューブがだんだんと重さを増してくる。ナツメの体力も限界に近いのだ。
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