映画/flat夢
□柔らかなからだ
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「ねぇ、フランク?」
隣で新聞を読んでいたフランクを呼ぶと、彼は読むのをやめて私の方を向いてくれた。
フランクのいいところのひとつ。ちゃんと目を見て話してくれる。
気になっていたことを、遠回しに聞くためにはいい質問を思いついたと思う。
「…フランクは軍隊にいたことがあるのよね?」
「ああ。元軍人だ」
彼は特殊部隊の隊長をしていた経験がある。
彼は強さの基礎をそこで研いたのだ。
「なら、…ええと、ブートキャンプもやった、の?」
少々時代遅れだけれど、一時期流行りに流行ったブートキャンプ式のダイエット方法。
作り出した男が言うには、新人隊員の基礎体力を一定レベルにあげるための筋トレをアレンジしたものになっているらしい。
「…ブートキャンプ?」
「そう。ちょっと前に流行った、…ダイエットの」
そこまで聞いて、フランクは私が気にしていたことに見当がついたらしい。
はにかむように笑って、私を手招いた。
「どこにも余分なものなどついていない」
「…そんなことないわ。最近運動不足だったし、筋肉が落ちたのかも…」
恥ずかしさと悔しさで拗ねながら言うと、フランクは片眉だけを器用に上げて、それを確かめるために背中や太股に手を這わせる。
官能を呼び起こすような触り方ではないのに、フランクが触れていると思うだけで反応する身体が恥ずかしい。
「服がきついわけでもないだろう?」
「服に体型をあわせてどうするのよ、フランク。
柔らかくなったでしょう?」
「…ああ、少しな」
その言葉にやっぱり、とため息をつくと、フランクは軽々と私を持ち上げて自分の膝に下ろした。
「もっと太ってもいいくらいだ」
「なに、言うの」
フランクの言葉に呆れながらも否定を込めた言葉を返すが、フランクは何処吹く風。
私を抱き締めて距離をゼロに、あやすような一定のリズムで私の背中を叩く。
「男は強さと強さのために必要な筋肉を持つ。
女性は愛と母性、そのための柔らかさを持つ。
…君もそうだ」
すべてを預けたくなるような逞しい胸から、生きている証拠の心音が聞こえる。
その音色に目を閉じれば、フランクの優しい声と心音、体温が私の世界のすべてになる。
「気にすることはない、ナツメ。
君が俺の隣に必要なの理由は、見た目や才能のような移ろいやすいものじゃない」
フランクは私の目をしっかりと見ながらはっきりと言うと、私にフレンチキスを送ってくれた。
その薄い唇を追い掛けると、フランクは少しだけ柔らかくなった私を、いつものように抱き締めてもう一度キスをくれた。
>筋肉はつかないが、運動なら寝室で付き合おう。