映画/flat夢
□スーツ
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クローゼットを開けて、おろしたてのスーツを取り出す。
フランクのスーツはすべて同じブランドで同じ色。それが整頓されて整然と並んでいる。
ワイシャツにネクタイも引っ張りだしてシワにならないようにベッドに置いた。
畳もうと思ってから、それらを入れるためのビニールを用意することを忘れていたことに気が付いてあわてて取りに戻る。
透明な袋の大きさを確かめてから、まずはプレスしたてでシワひとつないズボンを綺麗に折り畳む。
次に上着、ワイシャツにネクタイを折り畳み、見た目にも綺麗に袋にいれた。
ビニールが寄らないように気を付けながら封をして、軽く空気を抜けば完璧。
「よし、できた」
その完成品に満足がいって、持ち上げる。
あとはフランクに手渡すだけ。
「フラーンクッ、着替えのスーツ一式できたわ」
リビングダイニングでコーヒーを飲んでいたフランクに声をかけて、それを見せると完璧の出来に笑ってくれた。
「はい、一応だけどね」
「ああ。ありがとう」
フランクは着替えをテーブルに置いて、私の分のコーヒー注いで帰ってきた。
「本当は、使われない方がいいんだけれどね」
温かいコーヒーにミルクと砂糖をいれると、フランクはそのコーヒーの甘さを想像して笑いをこぼす。
「こんなに綺麗につくったから?」
「違うわ。替えが必要になるってことは、元のスーツはダメになったってことでしょう?」
フランクが頷く。
多分彼は、私がいいたいことをわかっている。
けれど私に言わせようとしているのだ。
「フランクがコーヒーやペプシを溢すわけもないし、スーツを替えるときは何か危険があって、それに立ち向かって汚れたときでしょう?」
そういうと苦笑しながらも頷くフランク。
責めている訳じゃないのだけれど、少しは気にして欲しい。
待っている私のことを。
「フランクが約束を守る人だってわかっているわ。
だけど守れなくなることも、守れないようにしようとする人だっているんだからね?」
フランクが怪我をしたり、捕まったり。
でも可能性としては私が、フランクを誘き寄せるために使われることだってないとは言えない。
それは、私の責任だけど。
「ちゃんと、帰ってきてね。何かあっても、私のところに」
フランクの手に、私の手を添える。
こんなに違うのね。
「帰るところは、ナツメのところだけだ」
添えた手を強く握り返しながら、フランクが言った。その言葉を信じたくて目を閉じると、瞼にキスが降ってきた。
それは、柔らかく温かなキスだった。