映画/flat夢

□出会いは悲しみの涙から生まれた
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信じられなかった。
平然と運転をしている人たちも、何事もないように歩いている人たちも。
すべての人たちの神経を疑った。

ヒュンヒュンとすごいスピードで通り過ぎていく車たち。
私は、その黒や赤や白といった原色の鉄のかたまりが踏みつける道路の脇を見て止まってしまった。
そこには血まみれになっている小さな小さなネコの姿があったからだ。
遠目に見てもわかる赤黒さ。
死んでいるだろうその姿が、私の足をその地に縫い付けた。
通り過ぎるドライバーの何人かはそれを上手に避けていたし、助手席の女性が顔をゆがめているのだって見た。
気づいているのに、彼らは何もしないのだ。


「…ひどい」


小さく呟くと、涙がにじみ始めた自分の目をこすった。
そして十数メートル先の信号が赤になったのを見計らって、道路に飛び出した。
僅かに早めに踏まれたブレーキの音を聞きながら、私はまっすぐにそのネコの元へ歩き出していた。
信号は短い。
だから早くしなければ自分の身も危ない。
けれど、今はそんなことを考えている余裕がなかった。
気に入っていたシャツを脱いで、そのネコをできるだけ優しく包む。
硬くなった四肢が、命が消えていることを知らせていた。


「…もう、大丈夫だからね」
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