映画/flat夢
□隣のクラスの彼女が、このクラスに来る理由
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「あ、棗嬢」
廊下を歩いていた棗は、誰かに呼ばれて振り返った。
そこには自分の双子の弟の友人ーーー鈴木と佐藤ーーーが2人並んでいた。
(彼女に言わせれば、あの弟と友人になった奇特な人間たちだ)
「佐藤くん、鈴木くん」
呼び止められた棗の表情はほとんど変わらず、淡々とした声が2人の名前を呼ぶ。
だが2人はその声と瞳に僅かな情がこもっているのを、長い付き合いで知っていた。
と、棗が気が付いたように口を開いた。
「…あの、平介は?」
「あー…」
「帰った」
「…は?」
「帰った」
鈴木のきっぱりとした声に、棗は数秒固まってから深いため息を吐いた。
そしてぼそりと、あの馬鹿、と呟いてから顔を上げた。
「…すみません、ふたりとも。今日、平介日直ですよね?」
「あれ、聞いてるの?棗嬢」
「朝言ってました。それと調理実習があるって」
「現国と入れ替わった。で、帰りやがった」
「…ああ」
納得がいった、と言外に表しつつ棗は眉を寄せた。
平介とは全く似てもにつかない美しい顔が歪む。
だがすぐにそれはもとの無表情に近いものに戻った。