映画/flat夢
□ラブレター騒動
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「…あ、の」
「はい?」
小さな声で呼び止められ、棗はその声の主に振り返った。
そこには随分と顔を赤くした背の高い男がひとり。
周囲に誰もいないのを確認した男は、ゆっくりとポケットからなにかを取り出して、素早い動作で棗にそれを押しつけた。
そしてトップスピードだろう速さで、その場を後にした。
棗は押しつけられた、いわゆるラブレターであろうそれを見て小さく息を吐いた。
***
移動教室から戻ってきた棗が平介たちの教室を通り過ぎようとした際、クラスメイトに絡まれている平介を見た。
基本的に平介の周りにいる人間は限られているので、クラスメイトに囲まれている状況は珍しい部類になる。
だが棗はそれを普段通りの無表情で見つめ、数秒の間を置いてから教室に入ってきた。
そして平介には目もくれず、近くにいた平介の友人たちに声を掛けた。
「こんにちは。鈴木くん、佐藤くん」
「ん、棗」
「棗嬢」
「これはどうなって…」
「ラブレターもらっちゃうやつなんてなあ」
「え、平介…ラブレターもらったんですか?」
平介に絡んでいるクラスメイトの口から出た言葉に、棗は驚きの声を上げた。
彼女が瞳を丸くしているあたり、かなり珍しい。
その一言にクラス中はシンと静まり返り、視線は棗に向いていた。