映画/flat夢
□彼のために出来ること
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リビングでお気に入りの紅茶を飲んでいると、母親が入ってきた。
紅茶飲みますか、と棗が聞けば是の返事が返ってきて席を立つ。
すると入れ替わりにソファーに座った母親が唐突に口を開いた。
「棗、明日あっくんがリベンジしに来るから」
「…平介と戦うなら体格の差が激しすぎませんか」
「そうね。だからおとまりリベンジになったの。お布団とられないようにするゲーム」
「ゲームなんですか?それ。…お菓子はありましたっけ?」
棗は母親からしっかりとした説明を受けず、だが秋が泊まりに来ることを知った。
お菓子を探してまずは冷蔵庫を開ける。だがそこには数品の料理と飲み物。
次に戸棚を開けると最低限の材料はあるため、パウンドケーキの様な簡単なお菓子なら作れるだろう。
棗はお菓子作りよりも料理の方が得意であるため、お菓子系の用意は基本的に弟である平介の分担だった。
数日前まで風邪で寝込んでいた弟の代わりに買いに行くべきか、と思っていると平介が下に降りてきた。
「あれ、姉さん。なにしてんの?」
「明日あきくんが来ると聞いたので…。お菓子ないですけど、どうします?買ってきましょうか」
「あーー…。いいよ、明日の午前中にでも作るし」
「材料ないですよ?パウンドケーキくらいしか作れないと思いますけど」
「え、…うーん。まあいいでしょ」
戸棚の材料を見た後いつも通りへらりと笑った平介に、棗は少々辟易としながらソファに座った。
母親のためにレモンを持って行けば、彼女は簡単な感謝の言葉のあと飲み始めた。
お菓子の本を開きながら、この材料ならこれも出来るなーと独り言を言う平介を横目で伺う。
平介は秋が毎日のように悲しんでいたのを知っているのだろうか。
毎日平介の顔を見に来ては後悔して、悲しんで、苦しんで、子どもなりに猛省していたことを知っているのだろうか。
秋が謝った時の声が、涙声に限りなく近かったことも。