映画/flat夢

□彼のために出来ること
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「…どうせならあきくんと作ってあげたらどうですか?パウンドケーキ」

「あーそれいいかも」


平介も棗も、あまり自分から話す方ではない。
そして、それは秋も一緒で。
だからなのか、3人が同じところにいても会話は限りなく少ない。
何度かあった秋と棗の2人きりの時など、全く会話がないまま時間が過ぎていった。

ーーーきらって、いる訳ではないんですが

ただ、どう接すればいいのかがよく分からない。
お菓子をあげればあのキラキラとした表情が向けられるのだろうが、別段その表情が欲しい訳ではないのだ。
ただ、この家が秋にとって居心地の良い場所であるために、自分が邪魔な存在になってはいけない、という思い。
偶然自分と出会った時に、秋が気まずさを感じない程度にはなりたい。
秋はきっとこのまま、純粋に育っていくのだろうから。

いつだったか、棗は秋に対し平介の作ったシフォンケーキをつまみながら話しかけたことがあった。
バイトも何もしていない棗は、秋のような年齢の子どもと接する機会などほとんどないため、何を話せばいいかが全くわからなかった。
目の前のケーキに全身全霊で歓喜の歌を歌う秋に対し、下手なことはいえないと気を張り…。
当たり障りのない言葉を紡いだ。

ーーー"平介のお菓子は美味しいですね"

ーーー"こくり"

ーーー"あきくんは、こういうお菓子が好きですか?"

ーーー"こくり"

その後はどうやって話を繋げて良いか分からず、ふたりでお菓子を口にしていた。
飲み物を入れて帰ってきた平介を見た途端、秋は瞳を煌めかせて喜んでいた。
…続かない会話に秋はどう思ったのだろう。
そこまで思ったところで、棗は考えるのをやめた。

分からないものは分からない。
人との関係は、勉強のように答えがあるモノではない。
だからこそ大変で、だからこそ面白くてーーー。
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