映画/flat夢

□瞳が自分の姿を映す
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敵から離れて数十分。
この短くも長い時間をかけて、ナツメは状況を嫌と言うほど理解した。
簡単に言えば車から離れれば死ぬ、ということだ。
今までも何度か、死への道が示されたことがあった。
家を爆破されたこともある。
だが今までよりも明らかに危険度は高い。
いつもフランクの手によって、ナツメは危険から守られてきた。
あたたかな場所でフランクを待つことが彼女の役目だった。
けれど今回は違う。
フランクも、自分も、そして同じく目の前の女性も死へのカウントダウンが始まりかけている。


「…ナツメ、すまない」

「……だ、いじょうぶよ。フランク、」


震えた唇が、乾いた舌が、大丈夫と言わせてはくれなかった。
間近に構えられたマシンガン。
何の感情も映していない瞳。
いつでも殺せる、と言わんばかりの表情。
ナツメはそれらを思い出して、背筋を凍らせた。
寒くもないのに肩を抱こうとして、付けられたブレスレットに視線が行く。
この重く、無機質な金属が牙をむくのはそう遠い未来ではないのだろう。


「ヴァレンティーナよ」


震えたままのナツメと、ナツメを巻き込んでしまった後悔で沈んでいるフランクの間に小さな声がした。
それは全く正体の掴めない女の声。
空気を読んだのだろうその返答に、ナツメは小さく笑みを作って同じく自己紹介をした。


***
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