映画/flat夢

□走る
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***

ブダペストに着くと、フランクは手持ちぶさたに電話を待つ。
だが一向に電話はかかってこない。
と、突然外にある公衆電話のベルが鳴った。
フランクはナツメに視線を送り、その電話を取りに向かった。
ナツメが不安そうにフランクの姿を見ていると、突然ドアが開いた。


「えっ」


次の瞬間、運転席へ乗ってきた男がドアを閉めるのと同時にエンジンをかけた。
だがナツメが驚いて大声を上げるのより早く、男は車を発進させた。


「フランクッ!!!」


大声で愛しい人の名を呼ぶと、彼はドア一枚の場所にいた。
だが走り出してしまった車のドアを開けることはできず、市場の方へと走っていく。
この車とフランクが20メートル離れてしまえば、フランクのブレスレットが爆発する。
ナツメは運転手の真後ろからシートを蹴り上げ、大声で暴れ始めた。
その騒ぎにヴァレンティーナも起きると、新しくなった運転手に殴りかかり二人で暴れ始めた。
大声を出し、髪を掴み、狭い空間でできるだけ暴れる。
運転手は忌々しそうにどうにか片手で応戦していたが、ついに車を止めて二人に襲いかかろうと体勢をかえた。
瞬間。
派手な音と共に運転席の窓を蹴り破り、フランクが運転席へと帰ってきた。
そして押し出されるように助手席側から落ちた男に、クビだ、と告げると素早くそこから走り去った。


「………」

「…無事か?」

「ええ。起きたらあなたじゃなくなってるんだもの、驚いたわ」

「すまない。…ナツメ?」


ミラー越しに見つめてくる瞳は、確かにフランクのものだった。
ナツメはゆっくりとその細い腕を伸ばし、彼の腕を掴んだ。
フランクは右手をハンドルから放し、ナツメの手を握りしめる。


「…よかった、フランク」

「大丈夫だ、ナツメ。さっき旅行の約束をしたばかりだろう?」

「そうね…。約束は必ず守るのがフランク・マーティンだものね」


ナツメの瞳に煌めくものがあることに見て見ぬふりをして、フランクは安心させるため笑ってみせる。
その笑みに応えるようにナツメは儚げに笑って、フランクの手に柔らかなキスを落とした。







>(私、ずいぶんとお邪魔虫じゃない…)
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