どマイナー夢
□暑い日に坂をのぼる
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「せめて、木陰があるといいですよね」
「まあなあ」
言葉が続かない。
たったそれだけのことに、僅かな恐怖心が湧いて、頭を振った。
(嫌われる、かもしれない)
…そんなガキのような理由もない恐怖。
自分の推量でしかないのに、その未来に足が竦む。
「もう七分目、あたりでしょうか…」
棗が立ち止まって息をついた。
同じく立ち止まると揺らめく陽炎の向こうに坂の頂上が見えた。
「だろうな」
返した言葉に、棗が微笑む。
ああ。
あそこへ着けばこの笑みは京極にもその細君にも、向けられるのだ。
(当たり前に、この笑みは俺のものでは ない)
下手な嫉妬に身を焦がしながらまた歩き始めると、
「あっ、待ってください、木場さんっ」
棗の、あわてたような声が呼び止めた。
この坂が、もっと長く続けばいい。
そうすれば、話せなくともこいつのとなりを歩けるのに。
けれどよこしまな願いは届かず、俺の目には京極堂の文字を掲げた門が飛び込んできた。
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