どマイナー夢

□ある男との出会い
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「…腹、へらねぇ?」


傷跡を持つ左手が、おれに触れる。
次いで右手もやってきて、俺の顎を持ち上げる。
近づいてくる須賀の顔。
これを、失う寸前だったのだ。


「…へった」


おれは、近づいてくる唇を拒まなかった。



スーパーで食料を買い込む。
須賀は肉、と一言だけ告げてそのコーナーに向かった。
野菜を適当にカゴに放り込むと重みが増した。

肉の多さのせいか高くついた買い物だったが、須賀とおれとで一つづつ下げて帰る。
指に傷を負った須賀。
須賀に護られたおれ。
何もかもが変わったのに、なにも変わらない。
それが心地よくて、苛立ちを覚えそうだ。


「…ミカ、あっち」


須賀が空いた左手をあげて、指をさす。
そこにはバカみたいに紅い夕日。


「…目ぇ、潰れる」


紅さが須賀の血の色のようで。


「……なぁ、須賀」

「なに」

「…雨の日、傷…傷むのか?」


莫迦らしい。
意味のない言葉を重ねて、何になる。
けれど、わかっている。
おれは須賀に謝ってはいけない。
須賀はおれに謝らせてはいけない。

それは、きっと、須賀も感じている。
…感じていて欲しい、という途方もない願い。


「雨、降ってないだろ」

「…今度教えろ」


莫迦なおれたちは、どこへ行けばいい。

***
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