アイシールド21夢

□飴
1ページ/2ページ


ふわりと香ったのは整髪料のにおいでもなければ、ましてや香水のにおいでもなかった。
柔らかに、そしてかすかに香る甘いにおいに阿含は目の前に居た棗を見た。
そして数秒もしないうちにさわり心地の良さそうな頬が動いたのを見て、あぁ、とひとりで納得した。


「飴か」
「(…?)」


突然かけられた声に棗が阿含を見上げる。
その片頬のわずかにふくらんでいるところを示すように指すと、棗はこくりとうなずいた。
ポケットから出てきた飴は桃が描かれたもので、開け口は丁寧に折りたたまれていた。


「随分と…、甘いにおいさせてると思ったら、んなの舐めてたのか」


甘臭い、と言おうとした阿含だったが、それを寸前で回避したのは相手が棗だからなのだろう。
心を傾けている相手に悪い印象を持たれたくないというのは誰にとっても同じらしい。
といっても阿含はいつでも欲望に忠実であり、自分の才能に物言わせた行動が多いので悪い印象は他者よりも多聞にある。
けれど、それを知っていながら当たり前に笑う棗が、責めもせずただ微笑む棗が、阿含はどうしようもなく好きで、欲しかった。
自分らしくないということは自分自身が一番よく分かっている。
けれど、無意識のうちに動いてしまう自分がいる。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ