アイシールド21夢

□冬の小さな悩み事
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右手を握っては開いてグーパーグーパーと動かしながら、棗は少しすねたように唇を尖らせていた。
むぅ、とでも言いたげな表情に筧は首をひねる。


「どうかしたか?」


問いかけに棗は首を大げさなほどにのけぞらせ、筧の目を見てから小さく頭を振った。
しかしその様子がしょんぼりしたように思えた筧は、膝に手をついて視界を低くして棗を伺うように見つめた。
筧の行動が嬉しかったのか棗はふわりと微笑んで、ありがとう、とお礼を言う。
その唇からは声が漏れることは無かったが白い息が筧に想いを伝えていた。


「何かあったか?寒いとか」
「(ふるふる)」


揺れる髪が筧の視線を誘う。棗は少し考え込んでからボードを手に取った。
笑わないでね、と前置きされた筧は何を言われるのだろう、と少しドキドキとしながら続く文字を待つ。
寒空の下でも棗の文字を待つ時間が楽しいのはやはり恋をしているからだろう。
棗の表情がクルクル変わって、笑顔になって、瞳が自分を映して、言葉から棗のことを知ることができる。
少し丸い文字だとか、可愛らしい仕種だとか、かけいくんとひらがなで書かれる文字の愛おしさだとかを、筧は心から楽しんでいた。


<冬になると静電気がね、すごいの。すぐにパチッ!ってなっちゃうんだ>


筧は示されたボードの少し丸い文字を読んで、そしてもう一度読んで、瞳を緩めた。
なんて可愛らしい悩みなのだろう。
その想いは堪えきれなかったようで、反射的に声に出していた。


「可愛いな、」


その言葉に棗はきょとんとしたようだった。そんなことを言われるとは思っても見なかったようだ。
しかしうっかり心の声を漏らしてしまった筧自身はきょとんとすることもできず、慌ててその言葉を繕おうとした。
ある意味では告白のチャンスかもしれないが、自分たちはお互いのことをほとんど知らない。
つい数ヶ月前まで知り合いでもなかったし、ライバルだったのだ。
仲の良さを幼なじみやチームメイトと比べられるはずもない。
アメリカ時代のように恋人になったはいいが自然消滅してしまうような関係には絶対になりたくない。
大切にしたいのだ。棗のことも、彼女を想う気持ちも。
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