アイシールド21夢

□ヒーロー
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カンッ、と甲高い音が響いて数人が振り向く。
そこには悔しそうに唇を突き出して、手に持つ缶を眺める棗がいた。



作戦会議はホテルのリビングで行われていた。
先ほどまで走り回っていたマネやチアに気をきかせた大和や筧がジュースを配っていく。
女性陣は思わぬ褒美に声を揃えて礼を言った。
最後にファイルを置いて作業を終えた棗に大和がオレンジジュースを手渡す。


「お疲れ様、棗ちゃん」


大和の優しい声掛けに、棗が笑顔を返す。
甘やかな時間が流れそうだったそこに、鋭い一言が飛んだ。


「オラ、さっさと来やがれっ、この糞癖毛!」


ノートルダム大学でエースをしていた大和をこう呼べるのは、世界にたったひとりだろう。
ご丁寧に数秒後には舌まで打ったヒル魔に大和は仕方なくその場を離れた。

補欠メンバーも含めたその会議の中心は、やはりヒル魔やキッドなどのQBたちだった。
その周りに大和やセナ、進や鷹などが集まる。
ラインのメンバーも集まっているためかなり暑苦しい集団ではあるが、会議は続いていく。
と、小さな音がした。
それに反応したのはまもりだった。
けれどその音の原因が分からなかったのか、僅かに首を傾げて元に戻る。
だがもう一度音がした。
それは甲高く響いて、会議中の数人も振り向いた。
音の正体は掴めないものの、その方向には拗ねたように唇を突き出した棗が座っている。
落とした視線はオレンジジュースの缶。
それだけでムサシは音の理由が分かったのか、ヒル魔の横から棗の傍まで歩いていった。


「貸してみろ」


棗からジュースを貰い受けると、ムサシは難なくその蓋を開けてしまった。
カシュ、といい音を立てて開いたそれに棗が目を輝かせる。
ムサシに向いて、おそらくありがとうと読むのだろう、口を動かして礼を言った。
礼を言われたムサシは何でもないことのように棗の頭を撫で、先ほどと同じ位置に帰ってきた。


「…糞ジジィめ」

「ん?」


ヒル魔の小さな呟きを聞き取れなかったのか、それとも聞き取った上でとぼけているのかムサシは疑問符を付けて返した。
周囲の人間の何人かは、ムサシのことをぎらついた目つきで睨んでいる。
その眼力の主たるものは嫉妬と羨望の混じり合った感情だろう。
だが周囲にどんな風に思われようと、ムサシには関係なかった。
10年以上も傍にいた幼なじみ。
大切な存在である棗を、簡単に誰かに奪われてはたまらない。

ーーー少しは牽制しとかねえとな

未だ強い視線たちを振り切るように、ムサシは一度大きく息を吐いて、瞳を閉じた。







>タケ兄はいつでもすぐに気づいてくれるから、大好きなんだ。

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