アイシールド21夢
□変わらぬ光景
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自動販売機の前で立ち尽くしていたのは、ムサシが小さい頃からずっと一緒にいる幼なじみだった。
飲み物を買うためコンビニに寄ろうとしたムサシは、横断歩道を渡った先に人影を見た。
遠目だとはいえその小ささに覚えがあった彼は、彼女の名前を呼んだ。
すると声を掛けられた棗は嬉しそうに大きく手を振って、ムサシを手招いた。
急ぐ用事でもなかったため、ムサシは彼女のもとへと足を進めた。
行ってみると、棗が自販機の前で困ったような苦笑いを浮かべていた。
何かあったのかと聞こうとする前に、軽快な音がした。
ピロピロッピロ〜ン
間が抜けた音は目の前の自販機から流れており、ボタンが点灯している。
だが棗は片手にお気に入りの紅茶を持っている。
「当たったのか」
「(こくり)」
音は軽快につづき、2人で顔を見合わせる。
点灯しているボタンは冷たい商品か棗の苦手な炭酸、コーヒーばかり。
ペットボトルのボタンが点灯していない辺りがさすがだと思ってしまう。
<タケ兄、何か飲む?>
「良いのか?貰って」
<だって2本も飲めないもん>
棗の困ったような顔が可愛らしく、ムサシは彼女の頭を撫でる。
絡まる細い髪は絹のように滑らかで、自分の幼なじみは女なのだ、とムサシに自覚させた。
ムサシは無糖コーヒーのボタンを押し、それを取り出した。
棗の驚いたような顔に小さく声を上げて笑う。
「棗はミルクと砂糖を入れてもコーヒーが飲めないんだったな」
<…カフェオレもカフェラテも苦手>
「どう違うんだ?それ」
<わかんない>
互いに片手を飲み物で埋め、歩き出す。
温かいと言うよりも熱い紅茶は棗が持つには辛かったようで、彼女は缶にタオルを巻いていた。
その光景にムサシが苦笑して持とうかと申し出れば、飲んじゃうから、と微笑まれた。