アイシールド21夢

□イカロス
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暗い路地裏に座り込んでいた真っ白な彼女を見た時、本当に天使だと思った。


クリスマス商戦を勝ち抜こうと、俺のお気に入りのブランドは新商品を大量入荷した。
クリスマスボウルの夢が果てた今、虚ろになっただろう目でその商品を眺めた。
気に入ったピアスを買えばにこやかすぎる笑顔で見送られ、気分が悪くなる。
笑えばいいっちゅう話じゃない、と文句をいいながら歩いているとふと視界になにかを捉えた。
見ればあまり治安が良いとは言えない路地裏の入り口に、真っ白な服を着た女性が座り込んでいた。
体調でも悪いのかと慌てて走り寄ると、そこには見知った顔が美しすぎる笑顔を称えていた。


「棗、ちゃん…?」


声は聞こえなかったようで、棗ちゃんは変わらずそこに座りこみ微笑んでいた。
路地裏で一人微笑む理由が全く分からなくて、若干嫌な予感を持ちながら見守る。
だけどそれは杞憂だったようで、よくよく見れば小さなてのひらが猫の背中を撫でていることに気が付いた。
瞳を細め優しい表情をしている彼女に見惚れていると、猫の方が俺に気づいた。
猫は薄暗い路地裏で目を煌めかせ、そして去ってしまった。
そこでやっと、棗ちゃんがこちらを見た。
まっすぐに射抜かれた瞳に息が止まる。
マリアのような強く冷ややかな眼差しではなく、内側に炎を揺らめかせる眼差し。
だがその眼差しは一瞬で、温かな光で周囲を照らす眼差しになった。


「棗ちゃん、」


名前を口にすると彼女はやっぱり柔らかく笑って、走り寄ってきてくれた。
それが嬉しい反面、彼女の先輩でありチームメイトであるヒル魔に怪我をさせたことを責められるのではないかと震えた。
それが間違っていたとは、今でも思っていない。
けれどそれだけが道だと思ったことが、誤りだったのかもしれない。
すべてが終わった今、何もかもを失って、自分は一人ただ立ち尽くしている。
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