アイシールド21夢
□牽制
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「あ、あの子だろ?例の沫咲さん」
「えっ!どこどこ?!」
昼休み。
このクラスは夏休みが終わってから、休み時間の訪問者が劇的に増えた。
理由は簡単で、目当ての人物がいるから。
その人物目当てだろう、隣のクラスの男たちが、聞き覚えのある名前を呼んだ。
机にうつぶせたままその2人に意識をやれば、下卑た内容が聞こえてきた。
「ホラあの子だよ、あの赤いボード持ってる」
「うっわぁ〜…。マジで小っさくって可愛い〜」
「なぁ?で、しかも…」
「あの笑顔だもんな〜…。アレはヤバイっしょ?!」
「だよな。ヒル魔だの風紀の姉崎さんも落ちたらしいじゃん?」
「ああいうのが彼女だったらな〜」
「おっ前、鼻の下伸びてんぞ」
「ったりめーじゃん!ああいう純粋な子を、自分好みに…なんてのが男のロマンだろ?」
「…まあなぁ…」
「……沫咲 棗ちゃんかぁ」
そこまで聞き終わって、苛立ちが頂点に達した。
大きく音を立てて席を立てば、その2人と同じように沫咲を見つめていた奴らも肩を揺らしたのが視線の端で見えた。
廊下を通り過ぎようとする沫咲に声を掛ければ、パッと光が差すような笑顔と共に走り寄ってくる。
「何処か行くのか?」
「(こくり)」
揺れる髪が赤い唇に囚われ、それを除けてやるとまた笑顔が返ってくる。
惜しみないその笑顔と優しさが人を惹き付けてやまない理由の1つ。
「ヒル魔んとこか?」
<それとタケ兄にも会いに行こうかと…。今日、タケ兄ちょっと早く帰るんだって>
練習メニューの書かれた紙を見れば今日もやはりキツイ練習が待っている。
だがおっさんのメニューだけはやや不明確で、納得して、そうか、とだけ返した。
そんな素っ気ない態度にも沫咲は楽しそうに頷いて、手を振ってそこを後にした。