アイシールド21夢

□雪
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マフラーを巻き直しながら、棗は空から舞い落ちる雪を見上げた。
アメリカに居た3年間では一度も見ることができなかったそれを、てのひらに納める。

ーーー灰のようにふわふわと舞うから、灰雪。

他にも粉雪、淡雪、風花に雪花など雪には多々美称がある。
目の前を舞う雪をどの名称で呼べばいいのかはわからないが、この光景が美しいことだけはよくわかる。
段々と気温も下がって、寒さのせいで頬や足もピリピリと痛むようになってきた。
けれど棗はアメフト界では聖地ともいえるこの東京スタジアムに降る雪をいつまでも眺めていたかった。

時を少しさかのぼること数時間前、棗はムサシと共に帰路についた。
時たま雪が降ってくる空を見上げて立ち止まったり、明日の話をしながらいつも通り家に帰ったのだ。
だがなぜか彼女の足は落ち着かず、棗はばっちりと防寒をして雪の中を散歩することにした。
そんなとき低いエンジン音が響いて、棗は寒さに竦めていた首を僅かに動かしてそれを見た。
そしてそのバスの表示に見つけてしまったのだ。
"東京スタジアム"の文字を。
棗は欠片も迷うことなくそのバスに飛び乗り、今、決戦の地を目の前にしている。
堂々とそびえ立つ東京スタジアムに圧倒されながらも、棗はまっすぐに見つめる。

ーーーついに、明日…。明日、ここで戦うんだ…。

するとなぜか周りが騒がしくなり、コートも着ていない男たちがスコップを手に雪かきを始めた。
ボランティアなのかと思った棗が手伝おうと動いたとき、後ろから誰かに呼び止められた。


「おい、お前…泥門のマネだろ」


その声に振り返るとそこには賊学カメレオンズのキャプテン、葉柱ルイの姿があった。
棗は夏休み明けからの転校だったので泥門対賊学の試合は見たことがないが、秋大会が始まってから何度か会う機会があったのだ。
網乃サイボーグスとの試合の際、道を間違えたセナを迎えに行ってくれたのも葉柱である。
棗はふわりと笑ってから頭を下げた。
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