アイシールド21夢

□愛しき幼なじみ
1ページ/3ページ

タッチダ〜〜〜ウン、という聞き慣れた言葉にムサシはピクリと反応した。
アメフトでは必ず聞くことになる言葉だとはいえ、ここは武蔵家のリビングである。
テレビをつけているわけでもなければ、ビデオを見ているわけでもないのに聞こえてくるのはおかしい。
だが机に置かれた携帯のランプがチカチカと点滅しているのに気がつくと、その声が棗の携帯着メロだということにようやく気がついた。
そこに飲み物を入れ直してくれていた棗が帰ってきたのでそれを告げると棗はありがとう、と微笑んでから携帯を丁寧に両手で開いた。
めずらしい着信音だな、と笑えば、うん、と笑う棗が可愛らしい。
だが、この着信ねセナとお揃いになっちゃったんだけどセナが全然良いよって言ってくれて、と続けた棗にセナの気持ちを知っているムサシは苦笑いしかできなかったが。
そういえば携帯を買うときに、ワンタッチで開くボタン式の携帯にするか今の携帯にするかを悩みに悩んでいたな、と思い出しながら棗を見る。

3年もの間、離れていた幼なじみ。
アメリカに行くことになったと聞かされたときムサシが一番に気にしたことは棗の身の安全と精神面だった。
随分と純粋に育った自分の幼なじみはあからさまな嘘にも引っかかるような優しさと無垢さを持っていて、こんな真っ直ぐな子どもが汚されるは時間の問題だろうと思った。
ムサシの中にある少々偏見の入ったアメリカ人像はこういう子どもを馬鹿にするだろうと思ったし、早々に酒やらタバコ、ひどければドラッグの餌食にさえされるのではないかと思って、心配さ故に双方の両親にそれとなく相談をしたくらいだった。
けれど帰ってきた棗は相変わらず優しく、純粋無垢であり、けれどもいわゆる天然ボケだとか愚かな莫迦ではない、芯のある女性になり始めていた。
帰ってきて早々、ムサシは絶対に帰ってくるからとアメフト部に入部して彼を待ち続けた。
そして泥門デビルバッツを筆頭にたくさんのアメフト関係者と仲良くなり、その心を攫っていった。

清くあり続ける棗は、現役アメフト部員という絶対に力で敵わないだろう異性に抱きしめられても、手を繋がれても、警戒心を持たない。
だがそれは純粋にその相手のことを信じ切っているからであり、その相手が信用に足らない人物ならばちゃんと断ることだって、その手を振り払うことだってするだろう。
自分が女性だと言うことを意識しているのかどうかはまた別問題だが、棗は自分のことをちゃんと理解しているし、意識もしている。
時折無理や無茶をすることもあるがそれは自分よりも相手のことを優先するからであり、その優先事項が終わればちゃんと反省だってするし、注意をされればちゃんと謝ることが出来るのだ。
大半の人間は天気が良ければ喜び、雨が降ったりして天気が悪ければ不満を抱く。
けれど棗はそうではない。
まず棗は天気を良い悪いなどと言わず、晴れたとか雨だね、とか事実で告げる。
そして雨が降ったとしてもちゃんとその雨の日を楽しむやりかたを知っている。
例え部屋の中にいることしか出来なくても、"仕方がないから"部屋にいるのではなく、"楽しいから"部屋にいる、という考え方をする。
それは少々特殊な考え方かも知れないが全身で感情を表現する純真さを持つ棗を、ムサシは好いていた。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ