コナン夢

□恋は砂糖でできている
1ページ/3ページ

まったりとした時間が流れる。
新一は棗の真剣な横顔を盗み見ながら、読んでもいない本のページをめくる。
楽しそうに瞳が輝くのを見て、こんなゆったりとした時間も意外と楽しいものだと実感する。
棗は新一の横で随分と真剣に本を読んでいた。
その本はミステリーの中でも隠れた名作と名高いもので、優作が珍しく気に入って持ち歩いている一冊だった。
新一もその本を気に入っており以前から市立図書館で繰り返し借りていたのだが、ふたりで出掛けた古本市で見つけた際に少々値が張ったにも関わらず即、手に入れた程だった。
棗は昔からミステリーや幽霊、ホラーものなどは大の苦手だった。
たった十五秒程度しか流れないテレビCMでも怖いらしく、時々新一に弱音を吐く程だった。
けれど優作がミステリー小説家ということもあり、ホラーはともかくミステリーには興味を持ったのが小学生のころだった。
そこで彼女の中のヒーローである新一と共にミステリー小説を読ませてみよう!とある日有希子が提案したのだ。
ヒーローである新一と一緒なら怖くなっても新一が護ってくれるって安心感があるじゃない?というのが有希子の意見だった。
そして提案は成功し、棗は新一と一緒ならばミステリー小説やミステリードラマなどを鑑賞出来るようになった。
ただ記憶力の良い棗にはドラマの殺人シーンなどはショックが大きいようで、ほとんどみないようだが。
もう十年近く変わらない、棗の癖。
付き合い始めてヒーローという枠は外れたのかも知れないが、好きな人を護りたいというのは本心だ。
チラリと棗のめくる本の片隅に視線をやれば、そろそろ一人目の犠牲者が出る頃だ。
死体に関する描写は少ないものの、キーになってくる死に方なのだ。
大丈夫か?と横目に棗の顔を見れば少し血の気が引いているように思う。
新しく紅茶でも淹れるか、と自分の膝の上の本から手を動かしたとき、かすかなあたたかさを感じた。
棗の、本を持たない左手が自分の右手に僅かながら触れているのだ。
あたたかい。
吸い寄せられるように新一の右手はそのぬくもりに寄り添ってしまい、動かせなくなってしまった。
次へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ