コナン夢

□恋は砂糖でできている
2ページ/3ページ


ーーーしまった

そう思うのと同時に、これでいい、という思いも湧く。
棗を気遣う気持ちが自分の本心に負けた瞬間だ。
だが努力してもこの右手は動かせないだろう。
触れあった肌が熱を持って、どうあらがっても意識がそちらに向いてしまう。
じわりじわりと感じるあたたかさがこそばゆい。
触れ合った部分から己がトロリと融けてしまいそうな感覚すら覚えて、新一は軽い眩暈を感じた。
紅茶に角砂糖を落としたときのようにホロホロと、集中力や忍耐力そして理性さえも崩れていく。
けれど付き合ってまだ一ヶ月もしない内に行動を起こすことは怖かった。
棗は父親に似ず箱入り娘として純粋に育ち、今に至っている。
それを簡単に汚してしまえば、嫌われてしまうことは必須だろう。
十年以上思い続けた恋をようやく実らせた新一には、今更棗を失うことなど考えられないことだった。
つい先日だって棗への強い想いが溢れそうになって困惑した程だったというのに。


「はぁ…」


新一は知らず知らずのうちに小さくため息を吐いてしまった。
意識が棗に向いてしまってもう本を読むどころではない。
自分だけがこんなにも愛してしまっていることが悔しくて、新一は触れあっていた手の甲を一度離した。
もう冷えてしまっているだろう自分のコーヒーに、未だ棗のぬくもりの残る右手を伸ばす。
口をつけたコーヒーはやはり冷めていてまずい。
その味に眉を寄せた新一は視界の端で棗の瞳が自分に向いたのに気がついた。
新一はそれを、棗と触れあっていた手を離すのが惜しくてずうっと同じ格好でいた自分が動いたことによる反射だと思った。
だが、新一は確かに見た。
棗の大きな黒目が自分の方へと動いた後に、寂しそうに自分の左手に向けられたのを。
新一は嬉しさと喜びをどうにか堪え、コーヒーを置いた。
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ