コナン夢

□ヒーローを見つけた日
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棗は今にも泣き出しそうな顔をして、小さくどうしよう、と呟いた。
数分前に鳴ったのは5時を知らせる鐘の音で、すぐにでも家に帰るべき時間だということを棗に痛感させる。
けれど帰るに帰れない事情があり、棗は寸前のところで涙を堪えながらも心細さに震えていた。
公園の垣根を分けたり、ベンチの下を探したりと思い当たるところをこれだけ探しても出てこないとなると、もしかしたらもう捨てられてしまったのかも知れない。
棗がそう考えて顔を青くしたとき、後ろから声がかけられた。


「なぁ、かくれんぼでもしてるのか?」

「ひゃぁっ!」


突然の声に驚き、棗は小さく悲鳴を上げた。
そしてゆっくりと、焦れったくなるほどにゆっくりと後ろを振り返った。
そこには沈みかけた夕陽を背負って笑う、小さな姿があった。
逆光だったために表情は口元の笑みしか分からなかったが、その笑みは棗を安心させた。
人見知りの気が強い棗は少々距離を保ちながらも、片手にサッカーボールを持つ新一をおずおずと伺うように見て、頭を振って問いに答えた。


「かくれんぼじゃないのか。ならこんなところでなにやってんだ?」

「…あ、」


棗はなにかを言おうと口を開いたが、その小さな手をぎゅうっと握りしめて口を閉ざした。
小さく呟いたきりの棗に、新一は不思議そうに首をかしげる。
けれど新一は握りしめられた手に飾りのついた髪ゴムが握られているのに気がついた。
よく見てみると髪は左右同じ高さで一部がはねており、おそらくそのゴムでふたつに結われていたのだろうということが簡単に予測できた。
しゃがみ込んで半泣きになっている棗の姿とそのゴムを見てだいたいの当たりをつけた新一は、ほら、と行って手を差し出した。
棗は差し出された手を辿って新一と目を合わせたが、その手の意味は分からなかったらしい。
首をかしげながら新一を見つめている。


「そのゴム、かたほう、なくなっちゃったんだろ?」

「…うん、」

「ならおれもさがすからさ。行こーぜ」

「…うんっ」


棗は嬉しそうに笑顔で新一の言葉にうなずくと、彼の手を取った。
それが始まりだったのだ。
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