コナン夢

□ヒーローを見つけた日
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新一と棗が髪ゴムを見つけて帰路についたのはもう夜の7時をとっくに回った時間だった。
まだ小学校にも入っていない子どもがそんな遅くまで連絡もなしに見つからなかったので、双方の両親はとても心配していた。
だが新一に手を引かれていた棗はいつもなら怖がるはずの夜道を笑顔で歩いており、新一と別れるときも珍しく嫌がって少しだけぐずったほどだった。
自分の娘の引っ込み思案さをよくよく痛感している英理は、新一に対する棗の懐きように驚いて目を丸くした。
だがもう遅い時間だったこともあって、双方の両親はこの話は明日にしましょう、と各々の子どもの手を引いて家に帰ることになった。
小五郎も英理もこんな遅い時間まで!と棗に充分すぎるほどの説教をしたが、棗は珍しく泣き出すこともなくごめんなさい、と静かに謝った。
その様子に、なぜか今日一日だけで娘が随分と大人になったような気がして、ふたりは互いを見合って首をかしげた。
まさかあの新一っつーガキとなにかあったのか、と小五郎が邪推をしたとき、棗は新一の名前に反応してキラキラと眼を輝かせた。


「おとうさん、しんいちくんとしりあいなの?!」

「…なっ!」

「あのね、しんいちくんはね、すっごいのっ。わたしのゴム、すぐにみつけてくれたんだよ!」


嬉しそうに笑う棗に小五郎と英理は一瞬、言葉をなくした。
昨日も一昨日も、いや生まれたときから棗の笑顔は何百回も見てきた。
けれど、自分の娘はこんなにも嬉しそうに笑うのか、と今更気付かされた気がしたのだ。
ゴムというのは棗がずっと欲しがっていたのを知った両親が昨日プレゼントした、飴玉を模した飾りのついた赤い髪ゴムのことだった。
わざわざラッピングまでしてもらって贈られたそれを目にしたとき、棗は本当に喜んでいた。
だがその表情は昨日のことだというのに思い出せず、思い出そうとすればなぜか先ほど見た新一のことを話す棗の表情が思い浮かんでしまう。
ふたりは新一に負けた気がして努力して思い出そうとするが、霞でもかかったようにぼんやりとしている。


「見つけてくれたって…。棗、あなた一度なくしたの?」

「あ…」


棗はばつが悪そうに小さく呟くと、ごめんなさい、と謝ってから俯いてしまった。
英理は小五郎の耳に口元を寄せ、棗には聞こえないように小さな声で話し始める。


「ねぇあなた。棗があのゴム、もらった矢先になくすと思う?」

「いや…。あんなに喜んでたんだし、棗はものを大切にするだろ。それはないな」

「ならやっぱりなにかあったのかしら」

「まぁ髪の毛結わいてんだからそう簡単に落としもしないだろうしなぁ…」


ふたりは内緒話をするようにひそひそと声を低めたまま、ことの真相を明日にでも新一に問うてみるつもりだった。
ちょうど明日は小五郎も非番だし、世の中は休日なのだ。
今日の礼をするためにも、一度棗も連れて工藤一家と顔合わせをしておくべきだろう。
ふたりはそう心を決めると、目の前で好物のハンバーグをほおばっている棗を見て苦笑をもらした。







>それはひとりぼっちじゃなくなった日
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