コナン夢

□歩み続けること
2ページ/2ページ

***

小五郎と英理の十回近くに及ぶ会議の結果、棗は精神面を鍛えるという名目のために合気道を始めることになった。
他にも柔道や空手、ピアノやバレエなども候補としてあがったものの、柔道や空手のようないかにも人を攻撃するための技は棗は苦手だろうし、ピアノやバレエは教室が近くになかったことで断念せざるを得なかった。
もちろん棗が女の子らしい習い事がしたいと訴えれば考慮するつもりではあったが、まずは合気道を習わせることになった。
始めた頃は慣れない運動で小さな怪我をしたり覚えることが多く大変だったが、それにも棗はたえていた。
なぜならお迎えの際に棗にとってのご褒美があったからだ。
仕事の都合上迎えに行けない両親の代わりに、新一の手を引いて有希子が迎えに来てくれるのだ。
ほんの少しずつだが自分がステップアップしていることを、自分が一番あこがれている人に真っ先に伝えることが出来る。
これは棗にとって何よりも嬉しいことだった。
稽古が終わると棗は手早く帰る準備をして稽古中には見せないそわそわとしたそぶりを見せる。
師範代や先輩、同級生などは最初はその姿に首をかしげたものの、もう一月もすればその姿は見慣れたものになっていた。
棗ちゃーん、と呼ばれると棗は大きく反応して、挨拶を済ませると一直線にその声ーーー正確にはその声の主の隣にいる人物ーーーに駆けていくのだ。
入り口にいる有希子とその隣にいる新一を見つけるとパッと表情を明るくして、飛びかからんばかりの喜びようで彼の隣に立つ。


「しんいちくん!あのね、きょうねっ」

「わかったって。ほら、おちつけよ」


小さな身体全体で素直な喜びや嬉しさを表現する棗と、その姿を苦笑しながらも受け止めてやる新一。
その仲の良さに有希子は自分すら嬉しくなりながら新一の手を取った。
本来なら棗の手も取るべきなのだろうがそうすると間に自分が挟まることになり話しにくいだろうと考慮し、棗の手は新一が握っている。
端から見れば兄妹のような図だが、その仲の良さはやはり兄妹のそれとは違う。


「そんなことやったのか?すげーなっ」

「うん!」


自分の息子と親友の娘が楽しそうに笑っているのを見て、有希子は喜びをかみしめていた。
英理には新一くんのおかげで棗が明るくなったわ、と感謝されたがそれは新一も同じだ。
サッカーとホームズが好きな新一はあまり大人に頼らず自分の力で物事を為しえようとする。
それは悪いことではないのだが、周囲に相談をせず自分の中だけで感情を終わらせてしまうことが多いのだ。
けれど棗と出会って少しずつだが強い感情が外に出てくるようになり、棗と共に居ることで責任感や自我が芽生えてきた。
すべてを見透かすような頭脳を持つ優作にはあまり頼ろうとしない部分が未だに目立つが、それでもこの変化は願ってもないことだった。


「おれも今日、リフティングのきろくこうしんしたんだ」

「リフティ…?」

「リフティング。ボールをじめんにおとさないで何回けりつづけられるか、ってやつ」

「ボールをおとさないで…?」

「ああ。うちにかえったら見せてやるよ」

「うんっ」


満面の笑みを浮かべながら楽しそうに会話を重ねるふたり。
有希子はそれをみながら、子どもの成長って早いのね、と内心で苦笑しながらも、ふたりを応援しようと決めた。







>きっとこうやって子どもは強く、逞しくなっていくのね
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ