コナン夢

□この恋、きみ色
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茜色に染まる棗の横顔は、新一が思わず見惚れてしまうほど美しかった。
スッと通った鼻筋は逆光のせいで淡く輪郭をぼやけさせているというのに、それでもその造形は目を惹く。
大きな目がキラリと光を反射して、黒真珠のような美しい瞳を際立たせていた。
夕陽に照らされる幼なじみが、世界的名画のようにすら思えて新一は戸惑いを隠せなかった。
手を伸ばそうにもその光景は現実離れしすぎている。

ーーー綺麗だ…すごく

その美しい光景を壊すことが怖くて、新一は息を殺しながら棗を見つめることしかできない。
新一は幼い頃から棗が好きだった。
泣き虫で人を疑わない素直さはよくいじめっ子にからかわれていた。
だがその素直さから派生した、穏やかさと慈しみを持った優しさは傍にいて心地よく、新一にとって棗はいつの間にかなくてはならない存在になっていた。
けれどそれは内面的な要素がほとんどで、あまり外見を重視したことはなかった。
彼女は美人の英理を母に持っているため決して不細工ではない。
だが棗は街を歩いていても十人が十人とも振り返るというような突出した美しさがあるわけではないし、芸能人のようなカリスマ性を持ってもいない。
もちろん美人だとか綺麗な人といった部類には入るのだろうが、外見で財を築いたり特別に得をすると言ったことはおそらくないだろう。
だと言うのに、今この瞬間の美しさに新一は声を無くしていた。
口に出せば本当にありふれた光景なのだ。
ただ、新一と棗以外いない教室で棗が夕陽に照らされている。ただそれだけだ。
それなのにこの神秘的…いや神々しいと言うべき、この光景はなんなのだろう。

ーーー棗、なんだ…よな?

本当に目の前に居るのは、自分の幼なじみである毛利棗なのだろうか。
毎日一緒に登校し、時折食事を作ってくれる、幼い頃には一緒に泥だらけになって遊び回った棗なのだろうか。
新一は夕陽を甘受して慈しむように瞳を細めた棗に視線も声も心も奪われたまま、固まることしかできなかった。
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