コナン夢

□この恋、きみ色
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「…?新一くん?」


柔らかな甘さを含んだ声は静かに新一の身体に染み渡り、そこでようやく新一は身体のこわばりから解放された。
返事をしようにも新一の舌はまだ滑らかに動かず、声は裏返ってしまった。
大丈夫?とかしげられた首の曲線にドキリとしながらも、新一はどうにかうなずいてみせる。


「そろそろ帰ろう?」

「ああ…」


新一のかすれるような語尾に気付かなかったのか、棗は立ち上がって窓の外を見つめた。
名残惜しそうに夕陽を見つめる棗は先ほどまでと変わらない美しさを称えていた。
けれど棗が、ほぅ、と感嘆のため息を吐いた瞬間、新一は棗の存在の淡さと儚さを垣間見たような気がした。
このままでは棗がこの燃えるような朱にとけてしまう。
新一はとっさに彼女の腕を強く掴んだ。
きょとん、と無防備な顔をした棗に新一の心臓は勝手に鼓動を速めていく。
どうしたの新一くん、と動く唇は茜色とはまた違った赤さで彼の視線を誘い、胸を強く締め付ける。


「…棗」

「うん、なあに?新一くん」

「…なつめ」

「…?新一くん?」


茜色が棗を包む。
この茜色にお前がとけて消えてしまいそうだ、と言ったら棗はどうするだろうか、と新一は頭の隅で考える。
けれどその不安を言葉に乗せてしまえば本当にそうなってしまいそうで恐ろしい。
新一は大切な想い人を失わないようにとその言葉と不安を心深くに押し込め、外していた視線を合わせる。
夕陽に映える美しい瞳が真っ直ぐに自分だけを見つめていることがこんなにも嬉しい。


「…新一くん、きれいなオレンジ色に染まってるね」


瞳を細めて嬉しそうに笑う棗はやはり神々しく見えて、泣きたくもないのに鼻の奥がツンと痛む。
オメーもな、と返して薄く笑ったが、上手く笑えたかどうか新一には分からなかった。
痛みの正体は分からないが新一はなぜかその痛みを知ることが出来て良かったと思った。
この痛みを知ってさえいれば棗のことを失うなんてことにはならない気がしたのだ。


「…帰るか」

「うん」


新一は未だ掴んだままの腕を放さないまま、茜色の教室から一歩を踏み出した。









>いつかこの茜色を俺の色に変えて、棗のすべてを染め上げたい
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