コナン夢

□きっと夢中にさせるから
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「あっ!」


小さな声が上がって、新一はなにかあったのかとすぐに棗を振り返った。
けれど当の棗は窓の外に視線をやっていて、楽しそうに瞳を輝かせていた。


「新一くん、今の見た?ランニングホームランだよ。これで逆転勝利!」


棗に笑顔を向けられて、新一はさほど興味も持たないままグラウンドへ視線を流した。
グラウンドの隅は棗が目撃したランニングホームランで沸きに沸いており、選手達の弾けんばかりの笑顔が遠くからでも見て取れる。
棗は選手達に揉みくちゃにされている立役者の背番号を見て、たぶん今打ったの園子ちゃんが要注目って言ってた後輩だよ、と付け加えた。
地区予選で負けてしまった野球部は、早めに引退した。
ほとんどの生徒がそのまま高校へエスカレーター式に上がるので受験勉強漬けにならずに遊んでいる。
新一や棗、そして目の前の生徒達ももれなく遊びほうけている人達で、引退した三年生対現役の一二年生での試合が行われているようだ。
三年の方が勝っていたようだが、今のホームランで二点追加点が入り、逆転したようだ。
ユニフォームではなくジャージに体育用のゼッケンを着込んだ三年生の中にクラスメイトの顔を見つけ、新一は悔しそうな顔をする彼を見つめた。
自分のことのように喜んでみせる棗の清廉さに、やっぱり棗が好きだという想いがこみ上げるが、棗の言葉に、新一はどうにか腹の底から燃え上がった感情を抑える。
そして暗示でもかけるように、園子の入れ知恵だ、棗が興味を持って調べた訳じゃない、と何度も繰り返した。
そうでもしなければ嫉妬心に負けてしまいそうだったからだ。
想い人が他の男を褒めている、という事実など認めたくないのだ。


「格好いいなぁ…」


グラウンドを見つめたまま羨ましそうに呟く棗に、新一はむっとしながらも、そうかぁ?とぶっきらぼうに返した。
その声は自分でも呆れるくらいに嫉妬心と八つ当たりの色を前面に押し出しており、新一は自分のかっこ悪さにため息を吐きたくなった。
遠目に見る後輩とやらはスポーツ少年という代名詞がとても似合う男子で、顔も悪くない。
棗はああいうのがタイプなのかよ、と悔しさと同時にどろりとした重く濁った熱が動く。
棗が見つめる先に自分が居ない。ただそれだけのことなのに嫉妬が心を支配していく。
のど元から胸、そして腹部の中心が締め付けられる重さは何度味わっても苦しいし嫌なものだ。
たった一言で、その視線だけで、その指先だけで、自分を一喜一憂させる棗の存在が嬉しくて、時々憎い。
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