コナン夢
□きみ攻略マニュアル
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「あーあ。女の口説き方講座とかさ、マニュアルとかあればいいのにな。
そうしたら美人教師から他校の気になる子まで口説き放題、ハーレムなのに」
先日、他校生の女子に振られたばかりだというその男は項垂れながら呟いた。
欲望をそのまま口にしたチームメイトに新一は呆れてアホか、と突っ込んだ。
そのあまりにも馬鹿らしいと言わんばかりの声色を聞いてその男はむっとして新一に食ってかかる。
「アホってなんだよ。工藤だって好きな奴くらいいるんだろ。
そいつが一発で自分に靡くようなやり方があったら、万々歳じゃねーかよ」
マニュアル通り一言囁けばコロッと堕ちるんだぜ?とスケベ心丸出しで男は言う。
それなら選び放題やり放題、両手に花だな、と他のチームメイトが彼の言葉尻に乗ると、ロッカーにいた数人もそれ良いな!と興奮気味に話題に参加する。
車の免許みたいにマニュアルだの基礎があれば楽だよな、と笑う男達。
だが新一はロッカールームがマニュアル賛成派一色になっても平然として反対の声を上げた。
「俺はそんなマニュアルがあったとしても、使わねーよ」
「ハァ?!」
「"好きなやつ"っていうなら、誰でもいいわけじゃねーだろ。外見の好みだとか性格だって明るいやつがいいとか静かなやつが良いとかあるわけだしさ」
「…そりゃぁ、まあな」
「ならまず相手のこと知らなきゃなんにもならねーじゃねえか」
新一の言葉にロッカールームは静まりかえった。
中学三年という思春期まっただ中にいてもやはり人間には好みや譲れない嗜好というものがある。
第二次性徴を迎えて異性の身体に興味を持っているのは当然だとしても、今はセックスの話しではなく恋愛についての話しだ。
"身体目当て"という下品な話しならまた違うものの、"好き合って付き合うカップル"の話題なら新一の言葉は間違っていない。
「好きな奴と一緒に笑ったり楽しんだり、ときには悲しんだりしながら距離を縮めていくのが恋愛の醍醐味だろ?
言葉や視線や思考を重ねて、時間をかけて互いに知り合って関係を深めていくんだ。
考えてみろよ。自分の起こす一挙一動が好きな奴の中に"自分の存在"を植え付けていくんだぜ?
それってスゲー快感じゃねえ?」
その言葉にチームメイトは瞠目した後、少し考え込んでから小さくそうかもな、ともらした。
快感、という言葉が正しいとは思えないが相手を知っていくことや自分を知ってもらうことは意外と楽しいことだ。
それに好きな人が出来れば自分を磨いて向上することだってあるし、今までは興味のなかったことにも興味を持つかもしれない。
「感情を共有しあえることも、好きな奴を大切にすることが出来るのも、全部自分の行動次第なんだ。
色んな手立てを考えて一番の良策を選んで行動し、その反応を経験としてたったひとりのための経験と行動を自分でつくる。
簡単に言えば個人用のマニュアルを自分が創り上げるんだ。じゃないと"好きなやつ"の一番になれねーからな。
"世界中の女性対象"マニュアルに頼ってたらいつまでも"好きなやつ"の及第点はもらえねーぜ」
新一の言葉にチームメイト達はそうだよな、と口々に同意をもらす。