コナン夢

□ずるいから好きです
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新一が何気なしにひょいと家庭科室を覗くとそこにはエプロンを着けた棗の姿があった。
残念ながらその姿を正面から見ることは出来なかったが棗にエプロンが似合っているのはよくわかる。
だが何度も見かけているそのエプロン姿にどこか違和感を感じて新一は首をかしげた。

ーーー別にいつもと変わり…ん、待てよ

数日前の棗の姿を思い浮かべたとき、新一はようやくその違和感の正体に気がついた。
エプロンの色が違うのだ。
工藤家で棗が使うエプロンは新一の母である有希子と同じフリルのついたデザインで色違いの薄いブルー。
だが今日棗が身に纏っているのは、華のように微笑む棗に良く似合うオレンジのそれだった。
それにデザインも違っているので、工藤家では見られない蝶々結びのリボンが棗が動く度にふわりと揺れる。
服の色が変わるだけでこんなに印象が変わるのか、と新一が棗のことをぼうっと見つめていると、後ろから友人の鋭い声が聞こえた。
ハッとしてその声に振り返ると友人は目を吊り上げて授業に遅れるぞ!と怒鳴った。
新一は慌てて踵を返し、横目にもう一度棗の姿を見てからスタートダッシュをつけて走りだした。

***

男子が技術の授業を終わらせて教室へ帰ってくると、そこには甘いにおいが漂っていた。
そのにおいの元は女子の机におかれているクッキーやマフィンといった調理実習で作ったお菓子である。
新一は棗の机の上にもそのお菓子が置かれているのを見てさりげなく近寄った。
だがそこには棗の姿はなく、自分の弁当箱を持った園子の姿だけがあった。


「あれ、棗は?」

「ああ工藤くん。棗なら飲み物買いに行ったよ」

「ふーん…」


新一は視線を流して教室のドアを見つめるものの、ほんの一分くらい前にね、という園子の言葉に内心ため息を吐きながら自分の席から弁当箱を取り出した。
こんなことなら先に頼んどけばよかった、と後悔しながら新一は悔しそうに頭を掻きむしる。
けれどそんな風に頼んでしまえば自分の気持ちが棗にばれてしまいそうで、頭の中でシミュレーションは出来ても口には出せなかった。
実は順調に勝ち抜いているサッカー部のミーティングが突然入ったので新一は昼食時も昼休みも教室にはいられないのだ。
その間に棗が調理実習で作ったお菓子を誰か他の男にあげる可能性は充分にある。
以前までの実習は昼食を兼ねたシチュー作りだったり林檎の皮むきテストを兼ねたもので、作ったものを教室に持ち帰れることなど一度だってなかった。
だが今日は、内容が家庭科なら自由にして良いと教師から言われた女子達が満場一致で決めたお菓子作り実習なのだ。
好きな人の手作りお菓子を自分以外の男に食べられるなど、考えたくもない。
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