コナン夢

□バカ、意識しすぎ
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「なつめっ!」


ひどく焦った声が響いて、それが消える前にガッターーーン!という大きな音が空間を支配した。
大きな音と金属音は耳の奥に飛び込んで、棗の頭を真っ白にした。
そしてその残響音が消える頃になってようやく棗は硬く瞑っていた目を開けた。

ーーーあ、れ…?

棗は今の状況が掴めずにいた。
バランスを崩して椅子から床へとダイブしたはずなのに、なぜか身体は痛みを感じていない。
しかも冷たく硬い床に投げ出されているはずなのに、身体は安心できるぬくもりに包まれていた。
そして目の前にある黒、そして金色はなんなのだろう。
棗は硬直から逃れ始めた腕をぎこちなく動かして、目の前の色に触れた。

ーーーえ?あたたかい…

目の前の黒にてのひらを押しつけてみるとそれは驚きに冷えてしまった指先に心地よい温度をしていた。
黒は熱を吸収するんだっけ、と頭の片隅を雑学がよぎり、その滑らかな表面を撫でていく。
スッと位置をずらすとドクンドクンと一定のリズムで脈打っている。
けれど棗は黒くて脈打つものの正体が分からずに、そのまま指を滑らせた。
だが指に触れた感触に視線をやって、それが金色のボタンだと頭が認識した途端、棗の頭の中で電球が光った。


「…制服、だ」


なぜ目の前に制服があるのだろう。
もしかしたら転んだ衝撃で幽体離脱でもしてしまったのだろうか。だけどセーラー服に黒なんてあったっけ…?
そんな突拍子もない考えに棗が飛びつこうとしたとき、声が降りそそいだ。


「…、なつめ…?」


不安そうなその声に棗は驚いて、素早く顔を上げた。
するとそこには、今まで一度も見たことのない表情をした新一がいた。
不安と恐れが全面に表れ、瞳は心配そうに揺らめき、今にも泣き出さんばかりに眉尻は下がっている。
英理に説教を食らったときも、怪我をしたときも、サッカーで負けたときも見たことのない、真剣で強く人の心を打つ顔。
震える唇がもう一度、なつめ、と動いたのを見て、棗はゆっくりと手を伸ばした。


「新一、くん」

「棗…?良かった…っ!」


棗の指先が新一の頬にそうっと触れると同時に、新一は棗の名前を呼んでギュウっと棗の身体を全力で抱き締めた。
良かった、良かったなつめ…!と繰り返される言葉には、安堵の色が含まれていて新一の心配の度合いが分かる。
彼を安心させようと、大丈夫だよ新一くん、と小さく呟いた棗に、新一はまた力を込めて棗を抱き締めた。
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