コナン夢

□その笑顔は反則だから
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「……なんだか、怖いの」

「怖い?」

「新一くんが、…怖い」


棗の発言に園子は目を瞠った。
幼なじみとしていつでも仲が良く、互いに理解しあっているふたり。
相手になにかおかしなところがあれば真っ先に気がつくし、隣にいることが当たり前である新一と棗。
だというのに、新一のことが怖い?
棗の中での新一は"ヒーロー"に近い存在で、棗はその彼に近づこうとして人間を磨いているというのにーーー。
そこまで思って園子は思い出した。
そう言えばここ数日、棗は何かにつけて新一とふたりになることを避けていた。
朝も一緒に登校していないし、休み時間も新一が近づくとさりげなく園子を巻き込むか席を立っていた。


「…怖いって、なにかあったの?変なことされたとか?」


新一が棗に片思いしていることは園子だけでなく他のクラスメイトたちにも有名な話だ。
もしかしたら新一が気持ちを抑えきれず棗になにかしたのかと、園子は顔を青くした。
けれど棗は園子の発言にかぶりを振って、新一くんはそんな人じゃないよ、と小さく呟いた。
わかってるけど、と続けた園子だが、それなら新一の何が怖いのかが分からない。


「ここ何日か、工藤くんのこと避けてるのも…そのせい?怖いから?」

「…ん、」

「何が怖いの?喧嘩とか怒られたとかじゃないんでしょ」


園子の言葉に棗は黙り込んだ。
当惑するように瞳が揺れるのを見ながら、園子は記憶を辿った。
ここ数日で棗の身になにかが起こったからこそ、棗は新一のことを避けているのだ。
もしかしたらその出来事は学校で起こったかも知れない。
そうやって記憶を辿っていたとき、園子はふと準備室での出来事を思い出した。
教師に教材を持ってくるように頼まれた棗がなかなか帰ってこなかったので新一と園子が追いかけたのだ。
薄暗かったその部屋に棗がまだ居るのかと不安になった園子が声をかけたせいで棗がバランスを崩し、転びかけた。
立ち尽くすことしかできなかった園子とは真逆に、新一が素早く反応して棗を抱きかかえたおかげで、棗には怪我ひとつなかったのだが。
ちょうどその日からではなかっただろうか。
なぜか新一への態度によそよそしさが垣間見えるようになったのはーーー。
園子は女の勘を働かせ、ピンと閃いた気持ちを言葉に乗せた。


「棗。…もしかして、工藤くんが"知らない人みたいで怖い"って、そういうこと?」

「ーーーっ!」


棗は驚いたように目を丸くして園子を見た。
思い切り図星を指されたと言わんばかりの顔に園子は少し複雑な気持ちになった。

ーーー棗、意識し始めてるんだ

棗はずっと隣にいた幼なじみが、男であることを痛感してしまったのだ。
だからこそ新一との距離を測りかねて、戸惑っているのだ。
やっとここまで来たか、と園子は内心で肩をすくめた。
新一の想いと庇護を一身に集めておきながらずっと気付かなかった棗。
ヒーローとして尊敬されていながらそれ以上の想いを欲していた新一。
そのふたりの気持ちがようやく、同じベクトルを向こうとしているのだ。
園子としては、親友が取られてしまうのが悲しいのか、それとも親友が誰かを好きになったことを祝福すればいいのか難しいところだが、ふたりの間を取り持つため親友として出来ることを見つけた。


「…ね、棗。明日の試合で確かめてみようよ」

「確かめる…って、何を…?」

「工藤くんが"知らない人かどうか"をよ。もしかしたら思い違いかも知れないでしょ?」


園子は棗の気持ちについてほとんど確信していたが、あえて違った方へミスリードして棗を上手く丸め込もうとした。
"思い違いかどうか"を確かめるのではなく"意識しているという事実"を確かめるために、試合を見に行くのだ。
棗は困ったように眉を寄せたが、園子が強引に押すと小さくうなずいた。
そして棗の中にある気持ちを確かめるために、試合観戦が決まった。
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