コナン夢

□公認ストーカー
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あと二週間もしないうちに、新一や棗、園子たち三年生は帝丹中学を卒業する。
ほとんどの生徒がそのまま高校に進学するので他校と比べて別れは少ないが、教員や出ていってしまう友人との別れは辛い。
ある生徒は二週間後の卒業がさみしいのか瞳を潤ませているし、またある生徒は一ヶ月しかない春休みを有効に使おうと綿密な計画を立てていた。
中にはの次の学年への期待をふくらませている生徒も居たが、ほとんどが"卒業"の言葉に深い思いを持っていた。
そんな中、あるクラスはなぜか混沌とした空気が渦巻いていた。

ある特定の声が響くと、僅かに揺れる空気。
笑い声が響けば両者とも視線と意識が相手に向くが、お互いに気付かないふりをしているらしい。
相手の気持ちを知るのを怖がっていながらも、大胆に動く本心を隠すことは出来ていないようだ。
といっても、一方の気持ちはまだ固まっていないようで戸惑うように揺らめいているのだが。


「でもこの間の試合凄かったよなぁ!工藤大活躍だったじゃんっ!」

「ホントホント!黄色い声援もらいまくってたし」

「羨ましいよな〜。おれもあんな風に女子にキャーキャー言われてぇ〜っ」


興奮気味に先日の試合について話す男子の中に、新一の姿はあった。
楽しそうに笑い合う彼らは全身で勝利を喜びつつも新一に小さな嫉妬を向けている。
だがそれがどす黒い妬みではないことは誰の目にも明らかで、立役者である新一を褒めるためのちょっとした嫉妬らしい。
彼らは入り口近くで話し込んでいて、その声は教室全体に良く響いた。
時折揺れる空気を肌で感じながらも新一はそれを追求することなく、話に意識を向ける。
そうするべきだと、本能が訴えていたからだ。


「そういや工藤、帰りがけに他校生に声かけられてたけど…。あれってやっぱ告白?」


その言葉がこだました瞬間、教室内の空気が震えた。
空気を震わせたのが誰か気がついているのだろう、教室の至る所から窓際の棗に視線が向けられる。
新一に問うた本人もまずいと思ったようでチラリと棗に視線を向けたが、一度放ってしまった言葉を撤回することは出来ない。
棗はそれらの視線に気付かないふりをして園子と会話を続けたが、机の中に隠した拳はなにかを堪えるようにキュウッと握られていた。


「バーロ、んなんじゃねーって」


新一の否定に誰もがホッとしたように息をついたが、棗だけはそうすることが出来なかった。
幼なじみとしての付き合いが長い分、棗は新一の嘘を見抜くことが上手くなっていた。
クラスメイトや他の人には分からなくても、棗にはその"告白などされていない"というのが"嘘"だと分かってしまったのだ。

ーーー新一くん、告白…されたんだ…

わざと言葉にするとその重みがズシンと棗にのし掛かった。
どんな返事をしたんだろう。どんな人だったんだろう。もしかして付き合っているんだろうかーーー。
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