コナン夢

□終わらない恋になれ
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体調不良を言い訳にして自分の気持ちとしっかり向き合った日から二日。
棗は昼休みにある男子から呼び出しを受けていた。
相手は人目を気にしていたので棗はもしかしたら、と過去に何度か経験したある出来事に思い当たった。
それなら真剣に、と気を引き締めしっかりと彼に向き直る。
立ち竦んでいた男子は長いこと俯いていたが、ようやく心を決めたのか顔を上げた。


「あの、僕…毛利先輩のことが……っ」


言葉はそこで区切られてしまったが棗には相手の言わんとすることが充分理解できた。
顔も耳も真っ赤に染めたその姿が眩しくて眼を細める。
残念ながら棗は目の前の相手のことを何一つ知らなかった。
先輩、という言葉で後輩なのだということだけは分かったが顔に見覚えはないし名前も分からない。
けれどその態度から本気で自分のことを想ってくれているのだと、ありありと感じる。
だが棗はつい昨日名付けたばかりの気持ちに嘘はつけないからと、静かに口火を切った。


「…ごめんなさい」

「っ、あのっ…」

「気持ちは嬉しいんですけど…、いま私、好きな人がいるんです。
 だからあなたの気持ちに…応えられません」


柔らかで丁寧なその言葉と口調には、棗の真摯な気持ちが籠もっていた。
謝りながらスイっと下げられた頭につられて絹のような黒髪が流れる。
男はその姿を十秒近く眺めて、そう…ですか、と寂しそうに呟いた。
その言葉に棗は顔を上げると申し訳ないという顔をしつつ、でもありがとうね、と言った。
首をかしげた彼に棗はふわりと笑う。


「気持ち、嬉しかったから。こんな私でも見てくれてる人がいたんだなぁって思って…。
 なんだか自信貰っちゃった。だから、…ありがとう」


照れくさそうに微笑む棗に相手の男は一瞬だけ複雑そうな顔で笑った。
そしてこちらこそありがとうございました、と礼を言うと晴れやかな顔でもう一度笑って、頭を下げてから静かに立ち去っていった。
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