コナン夢

□今からきみに告白します
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卒業式当日、新一は珍しく自分の隣にいない棗を探し回っていた。
一緒に登校した際、今日の放課後話したいことがあるんだけどさ、と切り出した新一に棗は小さくうなずいた。
髪の毛に隠れた彼女の耳がうっすらと赤かったのが見間違いでなければいいと思う。
新一も棗も少々ソワソワしながら卒業式を終え、新一はあるものをポケットの中に忍ばせて、決意を固めた。
だが体育館を後にしてすぐ、新一も棗もあっという間に後輩や同級生に囲まれてしまい、身動きがとれなくなってしまった。
一緒に写真撮らせてください!寄せ書き書いてっ私のこと忘れないでくださいぃ〜。そんな声がそこかしこから上がる。
見覚えのある顔、無い顔に囲まれて新一は棗の事を見失ってしまった。背の低い彼女は波に埋もれてしまったのだ。
新一はすぐにでも話をしようと思っていたので、このタイミングの悪さには少々辟易とした。
しかしこの人の波はサッカーと推理で人を魅了し続けて来た自分が作り出したものなので、仕方ないか、と新一は小さくため息を吐いた。
三十分もすると人の波が落ち着いてきたので新一は棗と話をしようとあたりを見渡した。
だがそこには棗の姿はなく、新一は嫌な予感を感じながら学校中を探し回ることになった。
職員室から始まって図書館やら体育館、他クラスまで覗いても棗の姿はどこにもない。
頼みの綱である園子に聞いても知らないと言われてしまい、新一はため息しかつけなかった。

ーーーまさか、どっかで告白されてんのか?

鞄も靴もあるのでまだ校舎内に居るのは確かなのだ。
小走りになりながら渡り廊下を歩いていると、向こう側から元サッカー部のメンバーが数人、歩いてきた。
すかさず彼らにも棗を見なかったか、と聞くが彼らも今までの人と同じで首を横に振るだけだった。
そっか、と少々気落ちした新一を見て彼らは何を思ったのか、新一の両腕をガシリと掴みズルズルと引き摺り始めた。


「おっ、おい!」

「大丈夫だって。毛利がお前を置いてくわけねーだろ」

「そうそう。ちょっと時間潰してればすぐ帰ってくるって」

「…時間潰してればって、お前らなぁ」

「ていうことで、サッカーやろうぜ」

「ハァ?!」


新一は彼らの口から出た言葉に閉口し、そのまま昇降口まで連れてこられてしまった。
そこまで来てようやく新一は抵抗し始めたが、いーじゃんか、と押し切られるようにグラウンドまで出てきてしまった。
制服に革靴という格好なので大まじめにサッカーをするつもりはないらしく、時間潰しのミニゲームでいいからよ、という言葉に新一は頭を掻く。
確かに今この瞬間棗が誰かから告白されていたとしてもそれを邪魔する権利は新一にはない。
幼なじみだからと言ってその場から連れ去ることは、出来ないのだ。
その事実がひどくもどかしい。恋人という一歩踏み込んだ立場ならば、それは可能なのに。
少し悲しそうな表情をした新一に友人達は空気を読んだのか、大丈夫だって!と繰り返す。
サッカーやって忘れちまおうぜ、と笑う彼らに、新一は小さくうなずいて、ボールを蹴った。

***
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