コナン夢

□指先から恋が始まる
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卒業パーティーが盛大に行われた後、夜の七時を回ったと言うことでパーティーはお開きとなった。
暗い夜道を女子をひとりで歩かせるわけにも行かず、方向が同じ者同士かたまって帰ることになった。
だが新一と棗が付き合いだしたことを知っている園子は気を利かせて、新一と棗をふたりっきりにした。
新一はそれに気がついていたようだが、棗は他の人は用事があるという言葉を信じたかも知れない。


「帰ろーぜ、棗」

「うん」


いつもと同じやりとり。
帰る場所も同じだし隣を歩く人も同じ。
ただ少しだけ違うのは、その心の中を占める人が、隣を歩く人だということ。

街灯の明かりは夜の暗闇を照らし出すが、少しばかり心許ない。
楽しかったね、と笑い合う新一と棗だったが、人通りの多い道から一本入った小道に足を進めた途端、急に相手を意識し始めた。
好きだと言って心を通わせたのはたった数時間前。
お互いの気持ちが通じ合って、初めてのふたりきりの瞬間だった。


「…卒業、したんだよな。俺ら」


その言葉に棗は小さくうなずいたが、それが中学を卒業したという意味なのか、幼なじみを卒業したという意味なのか咄嗟には分からなかった。
けれどそれを聞き返すのも恥ずかしくて、棗はキュウッとスカートを握りこんでその沈黙に耐える。
恥ずかしさや嬉しさや戸惑いやときめきがない交ぜになって、心に渦巻いていく。
さっきまでどうやって笑っていたのか、どうやって息をしていたのか、分からない。
ドクンドクンと耳の奥で鳴り響く鼓動がうるさい。


「なつめ、」

「うん…?」

「…な、良かったら…手、繋がねぇ?」


そう言って棗に向けて伸ばした手は、みっともなく震えていた。
それが恥ずかしくて新一は意識して手のひらに力を入れると、その震えはおさまった。

ーーー格好悪いな、俺

純粋にそう思って自分に毒づく。
想い人と想いを通わせることだけでどれだけ緊張したのか今でも覚えている。
なのに手を繋ぐと言うことは愛しい人のぬくもりに、直接触れることになる。
昨日までは簡単に繋げていた手も、想いが通じ合った今はどうやって触れたらいいのかわからない。

ーーー良くこんなこと出来るよな、父さんと母さん…

一番身近な恋人といえば、新一にとっては両親だった。
今はふたりで海外に身を落ち着けているが、あのふたりも良く手を繋ぐ人達だった。
母親である有希子は新一とも良く手を繋いだが、それ以上に父親である優作と手を繋いだ。
そして嬉しそうに微笑むのだ。
新一はそれを見る度、どうしてあんなに喜ぶんだ、とどこか冷めた感想を持っていた。
しかし今ならーーー愛しい人と心が通じ合った今ならその喜びが分かる。
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