コナン夢

□甘酸っぱい嘘つき
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件の外国人は自分の気に入った本が買えたようで、とても満足げに市を後にした。
いや〜助かったよ!という感謝の言葉に新一は謙遜しつつも礼を受け入れ、一冊本をタダで譲り受けていた。


「棗…、棗?」

「えっ?」

「どうかしたか?棗も好きな本、選んで良いってよ」

「え!いや、…私は横で見てただけですから、お役に立てなかったですし」

「そんなことないよ!本当に助かったんだから。ほらほら、好きなの選んで!」


促され、棗は困ったように眉を寄せたが、新一がこの本面白いぜ、と薦めた本を手にとった。
そしてありがとうございました、と深くお辞儀をして自分達のテントへと帰る。
その先を歩くのはご機嫌な新一の横顔。
今は嬉しそうに弧を描いている口元が、先ほどまでネイティブのような流れる英語を披露していたのだ。

ーーー新一くんって、やっぱりすごい。格好いい。

テントに戻ったふたりはまた店番を続けたが、お昼を挟むと他のボランティアに交代となった。
市で賑わう一角から離れ、少々奥まったベンチに腰を落ち着けたふたりは、静かに時を過ごす。
だが新一には先ほどから気になることがあった。
時折感じる視線。
それを辿るとそこには棗の瞳があって、新一と視線が合うと驚いたように一瞬目を見開いてから、視線を反らす。
そう言った行動がもう五回以上続いて新一はしびれを切らして棗の名前を呼んだ。


「なぁ棗、なんかあったか?」


そう問うと、棗はその瞬間図星を指されたような顔をして、けれど頭を振った。
本当か?と新一がしつこく問うと、少し間を置いてからゆっくりと唇を動かした。


「ごめんね。あの…なんでもない、から」


その声が随分と弱々しく、新一は驚いて棗の顔を覗き込んだ。
もしかしたら体調でも悪いのかと思ったからだ。
俯いた棗は瞳を潤ませ、頬や耳を赤くしている。


「なつめ…?」


新一の呼びかけに棗は顔を真っ赤にしたまま、小さく小さく続けた。


「さっきの新一くん、すごく格好良かったから…、あの…ドキドキ、しちゃって…。
 だけど恥ずかしくってなんでもないって、つい嘘ついちゃったの…」


…ごめんね。
棗が小さく謝ると、新一は大きなため息と共に顔を両手で覆って深くベンチに座り込んだ。
新一の行動に驚いた棗が声を掛けるが、新一は返事すらしない。
棗は慌てて新一に向き直ると新一の名前を繰り返し呼び続けた。


「新一くん?新一くん、どうしたの?大丈夫?」


心配そうに顔を覗き込む棗に、新一はもう止めてくれと言わんばかりに、飲み物を買ってきて欲しいとリクエストした。
棗はうなずくと自動販売機の方へと小走りに走り去り、そこには新一だけが残された。


「…あー、本当に重症だ」


新一は棗の破壊力抜群の言葉とはにかんだ笑顔を反芻しながら、項垂れる。
こんなにも想いが溢れてしまって大丈夫なのだろうか。
もしも棗を失うことになれば、自分は生きられないのではないか、とすら思わせる。
想いも愛情も視線も意識もすべてが棗に向いてしまっている。


「…こんなに好きでどうするんだよ、俺」


この自分ですら抱えきれない想いを棗に伝えることは出来るのだろうか。
棗のすべてが可愛らしくて、愛おしくて堪らない。


「…なーんか、青春って感じだわ」


そう自嘲すると、新一はペットボトルを二本抱えて戻ってきた棗を未だ少し赤い頬で出迎えた。







>一瞬、本気で心臓止まったかと思ったぜ
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