□夜の空中散歩
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飛行戦艦はとても大きく、重厚だった。
中にはいると、基地と同じように誰もが慌ただしく駆け回っている。
割り当てられた部屋につくと、そこは少々天井は低いが広い部屋だった。
隣が将軍の部屋だと教えられ、頷く。
言外にムスカとの密会は父である将軍の目に容易に触れる、と牽制していた。

「ありがとうございました。…お気をつけて」

側近達が部屋を出る直前、ほんの少しの嫌味も含んでにこやかに笑った。
それに気づいているのかいないのか、男たちは少々頬を染めて、礼をした。


手持ちぶさたになってしまったナツメは、ふと窓から視線を外に投げた。
すると何故か基地がオレンジ色に燃え上がっているではないか。
その事実に驚きのあまり声を上げてしまう。
父は無事だろうか。
ムスカは無事だろうか。
そんな心配と不安が、頭の中でグルグルと回る。
だが、今すぐにその心配と不安を拭ってくれる人物は、誰ひとりいなかった。


「…ナツメさん」

ドアの向こうからしたのは、愛しいムスカの声。
その優しい声が身体を満たして、震えまで起きてくる。

「ムスカさん!」

ナツメはムスカの無事を心から喜んで、女性としてあるまじき大声を上げてしまう。
声と共に開けられたドアの奥にはムスカの姿。
声を上げたせいか少し顔は驚きの色を見せているが、すぐに笑顔に戻る。

「ムスカさん…。良かった、無事で…」

「もちろんです。そんなにご心配なさらずとも」

「でも…。基地が燃えているようだったので…。私、驚いてしまって…」

ナツメの両手は不安そうに胸の前で握られている。
まるで祈りを捧げるようなそのポーズ。
だが、その握られた手は小刻みに震えていた。
よほど心配だったのだろう。

「私は大丈夫ですよ、ナツメ」

そう言ってムスカはナツメの頬に触れた。
その、肌に馴染むようなじんわりとした体温に涙腺が緩む。


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