□だれもしらない
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「ナツメさん。あなたと私は是非この王国を見てみたい。私と共に、来てくださいませんか?」
「………」

いきなりの言葉に、ナツメはただ目を見開くだけだ。
上司の娘を、口説き落としているのだ。

「もちろん少々の危険は伴います。ですがあなたとこの王国を発見する喜びを分かち合いたいのです」

それを言うムスカの目は驚く程に真剣で、真っ直ぐである。
その強い視線に貫かれ、ナツメは小さく息を吸う。

「でも、そんな…。ムスカさんは、一応父の、部下という立場なんでしょう?」

とまどいの声が隠せないナツメに対し、ムスカは何事もないように言ってのける。

「そうです。ですがだからといってあなたを連れて行けない程ではありません。
 是非、一緒に来てください」

その言葉に、ナツメはグラグラと揺れた。
父から聞かされていた「青二才のムスカ」とは全くイメージが異なっている。
父は何故、こんなにも真剣で、人の心を動かす人を嫌っているのだろう。
そして少し考えた後、ナツメはムスカをしっかり見て答えた。

「………ありがとう、ございます」
「…ならば!」

その答えを聞いた後、ムスカはとても嬉しそうに笑い、ナツメに一歩近づいた。
ナツメも同じように一歩近づき、ムスカが彼女の手に触れた。
ナツメが少しだけ力を込めて握り返すとムスカはしっかりと手を握る。
そして見つめ合う。

「はい。…私もムスカさんと一緒に、この王国をこの目で見てみたい」

優しい声と共に、ナツメとムスカの影が重なった。



こうして手に手を取り合った二人は空に浮かぶ、伝説の王国を見つけた。
…だが、そのあとの物語は







だれもしらない


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