□嫌な勘は当たるものだ
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ナツメは父の顔を見るとホッと息をついた。
彼は少しだけ焦ったような、苛立ったような顔をしていたが
自身の娘、ナツメの姿を目にすると手を広げて彼女を出迎えた。
その広げられた腕にすっぽりと収まるナツメの細い身体。
顔や首筋が赤く染まっているが、同時に瞳も潤んでいたことで
彼は娘が自分を心配して泣くのを我慢し、走って会いに来たのだと思いこんだ。

「もう大丈夫だぞ、ナツメ。私も飛行石も無事だ」

「えぇ、えぇ…!」

将軍に抱きしめられ、力強く頷く。
周りはその光景に、将軍がナツメを握り潰してしまわぬかといらない心配をしていた。
そんな時、重い扉が低く音を立てて開いた。
そこにはにこやかな笑みを浮かべたムスカの姿。

「…むぅ、ムスカか」

将軍は唸るように言い捨てる。
ナツメは先ほどのムスカとのことを思い出してしまい、
恥ずかしさから将軍の胸に深く顔を埋める。
娘の珍しい行動に将軍が視線を落とすと、先ほどよりも首筋が赤い。

将軍の勘がピン!とある可能性についてはじき出した。
"もしや娘はこの特務の青二才に手を出されたのではないか"。
だがそれを口に出せばその答えが肯定・否定のどちらにしてもあらぬ噂が立つ。
それにわざわざ大勢のいる前で娘を辱める気など毛頭ない。
だがもしも手を出したのだとしたら…!
娘とムスカの"もしも"を考えてはらわたが煮えくりかえりそうになる。
だがここは賢明にと将軍は額に青筋を立てながらもムスカに平然と声を掛けた。

「ムスカ、…飛行石を見せろ。……ナツメ、お前もおいで」

ムスカには言い投げるように言葉を上から浴びせる。
だがやはり将軍とはいえ子どもは特別なのだろう。
後半の娘への態度は優しいものだった。

「わかりました。…こちらです」

ムスカが将軍を案内しようと手で行く方向を示す。
将軍がナツメの頭を優しく撫でると、やっとナツメは顔を上げた。
似ていない親子は視線が合うとお互いにこやかに笑む。
この微笑みも全く似ていなかったが。

「さぁ。…とても美しいものですよ、飛行石は」

将軍によりエスコートされるナツメに話しかける。
視線が合っても先ほどよりは顔を赤面させないが、すぐに逸らされる。
ムスカはその様子に少しだけ困ったように眉を寄せるが、
口元には穏やかな笑み。

その笑みを見て将軍は苦々しく顔を歪め、
恥ずかしさから視線を逸らし俯いたナツメは
胸をときめかせながら静かに飛行石へと向かった。





嫌な勘は当たるものだ
 

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