□贈り物
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「あぁ、良いところに。ナツメさん、少々お時間をよろしいですか?」

ムスカが優しく声を掛けた。
ナツメがもちろん、と笑うと邪魔にならないようにと廊下の端へ彼女を誘導した。

「申し訳ないのですが、買い物に付き合って頂けないでしょうか」

ムスカがそう笑うと、ナツメが少し意外そうに首をかしげた。
どこかで物資が足りないと聞いた覚えもないし、軍に必要な物は充分揃っているはずだ。
だがムスカの少し困ったような顔を見て、ナツメは頷いた。

「えぇ。私なんかで良ければ」

「あぁ、助かります。私は年頃の娘さんが気に入るような服は判らないので」

ムスカの口元に笑みが浮かぶ。
そして彼女の手を取ると、エスコートするように廊下を歩き始めた。



「年頃の娘さん、とは…?」

手を取られながらナツメは疑問を口にした。
軍には男しかおらず、唯一の女は自分ただ一人だけである。
自分はもう年頃の娘さんと言われるような歳ではないし、
自分のために服を買ってくれるのならば、ムスカ自身がナツメに着て欲しい服を送るだろう。
尋問する相手に服を贈るわけもないし…、とナツメは呟く。
その疑問にムスカはすんなりと答えた。

「あぁ、例の王国のことを知っている少女がこの基地に来る予定なのですよ」

「まぁ、本当ですか?」

ムスカの言葉にナツメは驚いた。
自分とムスカを結びつけてくれた王国。
その王国を知っている人物がこの基地に来るというのだ。

「それで流行りの服をいくつか用意しようと思いましてね」

そう言うとムスカはドアを開けた。
ナツメの手を放し、彼女が部屋に入った事を確認するとドアを閉じた。
彼女は軍服だったため、街に行くには着替える必要があるのだ。
ムスカだけであればそのままの格好で出掛けられるが、女性はそうはいかなかった。
ナツメはムスカが傍に居るであろうドアを見つめ、着替えを始めた。

ナツメが着替え終わり、ドアを開けた。
初めてあったときのようなパニエで膨らんだドレスではなく、
生地は高級だが少々庶民的なワンピースを着ている。
その姿にムスカは美しいと素直に彼女を褒めた。
ナツメはその言葉に満面の笑みで応える。

「では、行きましょう」

ムスカが手を出す。
先ほどのようにムスカが手を取るのではなく、
ダンスの申し込みのように彼女自身がムスカの手を取るのを待っている。
ナツメはムスカの手を何のためらいもなく取ると、その美しい足で歩き出した。



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